第3章 覇道の一里塚 上篇
定例会話(お世辞)。鷹司卿は相手をおだてるのが好きである。褒める方が、貶すより楽なのは確かだが、しかし、「益荒男」とは。英雄としての格には父に至らぬ、どちらかと言えば、冷徹な政治家としての一面がある清継には、ややズレた評価だ。傍らで黙って見ていた落合はそれを笑顔で受け流している清継を見てそう思った。
「総督がお待ちかねですわ、泰邦さま」
「そうですか、そうですか。では、参りましょう」
清継は既に立ち上がっていたが、鷹司智子は思い出したように、手を叩いた。
「そうそう、それと、上野殿」
「はっ」
智子は幾分親しそうに上野に話した。上野は無表情のままだが、特に気にする様子もない。
「連絡が来ておりましたわ。『お掛け直し下さい』との事でしたが、何分時勢で御座います故、お待ち頂いております」
「有難う御座います、鷹司様」
「御相手はどなた様でしょう?」
割り込むように、彰が智子に声を掛ける。智子は少し砕けた様子で、
「浪岡兵部大丞(ひょうぶたいじょう)…アキノリさま?そう、浪岡顕法さまと申されていましたわよ。敷島の方って名前が古風でまだ戸惑ってしまうわね」
と答えた。彰は特に驚く様子を見せなかった。
「左様で御座いますか。浪岡様ですか」
「御同輩の方のようですね。御仲間が無事でよう御座いましたわ。ふふふ」
クスっと笑う智子に会釈をして、上野は改めて清継に向き直り、始めの時のように踵を合わせ、不動の構えになった。
「それでは、これにて失礼致します、閣下」
「こちらこそ、お会い出来て良かったよ。また、会おう」
清継は手を差し出した。上野はそれを一瞥し、
「…是非、再び御尊顔を拝したく存じます」
手を差し出して清継の手を握った。
第三話「覇道の一里塚」上篇
・原作:八幡景綱
・編集:十三宮顕