• テキストサイズ

RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 浄化、と言った。その言葉の意味が分からない清継ではない。しかも、1万以上の兵力を以て行う浄化とは、もはや殲滅戦に相違なく、更に言えば、相手が軍隊やゲリラではないのだとすれば、ただの虐殺である。女の顔が敢えて平常になった理由が少し分かった。生真面目な姿の裏は恐らく、冷酷極まりない本性があるか、或いはよほど無頓着か。

 嘗て、ナチの大物としてアイヒマンという男が居た。冷酷にヘブライ人を収容所で「処理」し続けた極悪人、という垂れ込みで世界中がその存在を追った男だが、捕らえられた彼は、誰もが思った「極悪非道の狂信者」でも「サイコパスのような悪虐な存在」でもなく、只々詰まらない官僚であった。平静には妻を愛し、真面目に働く典型的なゲルマン人。モサドに捕まったその時も、南米の亡命先で慎ましやかに暮らしていただけの、小市民と云って過言ではない人物だった。法廷に引き出された彼もまたその線から―イスラエル側の述べた罪状の「中身」は兎も角―ほぼずれる事なく、言わば、役割ゆえにその所業を為した、というだけの小者だった。

 世の中にはそんな奴らはごまんと居る。上野の兵達の中にもそういう輩が必ず居るだろう。しかし、当の上野が果たしてそうなのか?と云うと、正直言って彼の事をまだ何も知らない清継には判断が付かない所だった。ただ、直感で言えば、違うと思った。では、余程のサディストなのか?それともやはり殺しに無頓着なだけなのか?そうでなければ、よもや・・・・・

「失礼致します」

 ノックの音。清継はまたしても物思いを断ち切られてしまった。

「どうぞ」

 落合が声を掛ける。すると、清継には見慣れた姿がドアを開いた先にあった。

「これは鷹司卿」

「お久し振りですわ、泰邦さま」

 鷹司智子。西宮堯彦の側近中の側近にして、身の回りを世話する女官。常に巫女服を用いているこの変わり種の女人とは浅からぬ縁が出来ていた。

「お元気そうで何より御座います、鷹司卿」

「泰邦さまも、お元気そうで。それにしても、相変わらずの益荒男(ますらお)振り。惚れ惚れいたしますわ」
/ 95ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp