第3章 覇道の一里塚 上篇
「貴殿は確か先程、警固についている、と申しておったが、貴殿自らの兵は如何程か?中野殿の申しておった…えぇっと」
「鹿取隊、で御座います、閣下」
「ああ、そうだったね。失礼」
間髪容れずに彰が口を差し込んだ。上野の表情は、なおも変わらない。
「鹿取隊とは如何程の数を?」
「幕府総本営より預かっております兵数は凡そ1万5千騎です。只、3千程京に置いて参りましたので、今は1万2千程と」
平気で嘘をついた。彰は頷きながら思った。凡その数で答えたのは兎も角、一千騎を敢えて抜かしている。恐らく除外したのは傭兵隊長ヴェルンへア ヨハネス フォン グラーフェンベルクと浪人『祇園半次郎』を率いた尼子善久、山中鹿之助の部隊だろう。今は宇都宮へ向かわせているはず。電力事情で運用が制限されているACSを飛ばしているはずだ。
「その若さで、1万を超す兵を率いておるのか…」
清継は純粋に驚いた。見れば未だ二十代後半かせいぜい三十代に差し掛かる、まだまだ青年と言っても良い若き将校。それが、既に万余の大軍を率いているとは、敷島人には人が居ないか、或いは余程の才覚か。会津での「敷島人」の戦い振りを見るに、恐らく後者であろうが。
「泰邦殿、上野殿の才覚については私が保証します」
落合がやや乗り出し気味になって言う。清継もやや声の先へ顔を向けた。
「あの天変地異以来、総督府には不穏分子や野盗の類が幾度と押し寄せてまいりましたが、上野殿が悉(ことごと)く退けておりました。それに、聞けば、上野殿は敷島人の中では名の知れた将軍だとの事で」
「ほう…」
改めて清継は上野を見る。上野は未だに無表情だ。ただ、部屋の隅に座る中野彰子の目付きが些か不穏だった。
「そういえば、上野殿」
「はい、閣下」
「御貴殿は、あの天変地異の折には何を為さっておられた?」
落合の表情が険しく変わった。それを見て彰の表情は寧ろ平常となる。対する上野は、遂に表情を変えずに清継に答えた。
「スラムの浄化作戦です」
「敷島にはスラムがあったのか」
「はい、閣下。東京の中央に、不穏分子の巣窟となっているスラムが御座います」
「それを『浄化』したと…?」
「はい、しかしながら、完了する前に、あの光を得て、気がつけばここに」
「…そうか」