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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 あの天変地異以来、世の中は想像以上にざわつき、傷付いている。現れたのは、共和国を奉じる「敷島人」。奴らは、日本人を「蛮族」だの、「未開人」だのと呼んで蔑(さげす)んでいる。

「冗談じゃないよ、全く」

 泰邦清継(やすくに きよつぐ)は同胞と同じ言葉を話しながら、一方で日本人を「バルバロイ」と呼んで嘲(あざけ)って来た「敷島人」に憤っていた。

 クレーターへ出張する前にも「日本人」と「敷島人」の争いを鎮めて来たばかりだったが、移動中にも話は次々と飛んで来る。

「全く、どうにかしてくれよ」

 誰一人として聞いていない。誰もどうにもしてくれはしない。クレーターにある総督府の応接室に通された清継は無人の空間にさっきからぶつぶつと言葉を吐き出している。

 独り言が増えたのは、歳だからだろうか?最近、そう思うようになって来た。死んだ父の年齢に日を追う毎に近くなって行く。何の事はない、当然の話なのだが、それではその事実を、

「はい、そうですか」

 で流せるほど達観しているわけではない。会津に軍を持ち、少なからず世に影響を与えて来たと自認する清継であれば尚更だ。戦いで死ぬ事もありうる立場にあって、ある意味で一番恐れていたのは病による野望の頓挫である。老いれば、そのリスクは高くなって来る。正直言ってまだまだ健康体であるし、充分若い方ではあるが、それでも…と考えてしまうのは、やはり清継も人の子、詰まらない事に悩み苦しむ、人間という生き物の範疇にある存在なのだ。

 志を常に以て生きて来た父 清明(きよあき)の跡を継ぎ、会津の民に念願の覇権を見せんとして懸命にやって来た。報われない事も多かった。時には利を得る為に政敵を欺きで抹殺する事も行って来た。己の野望を果たす為、ではあったが、だからと言って民衆の顔を忘れた事は一度もない。そして、愛する妻子の顔を忘れはしなかった。不届きなる輩によって失われたもう一人の娘の事も、一度だって。

 生きて来た道程は今思えば一瞬だ。戦って、殺して、戦って、そして殺されて、また殺した。それの繰り返しで生きて来た。数十年の戦いの果てに偉大な父は老いて死んだ。自分もそうなる運命なのだろうか?このまま志を果たさずに…?

「失礼致します」

 ノックに続いて掛けられた声に、清継はハッとなった。物思いとは恐ろしい。周りを見えなくしてしまうのだ。
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