第3章 覇道の一里塚 上篇
「…ど、どうぞ」
軽く咳払いをして、調子を整える。
声を掛けるとドアが開き、清継も立ち上がった。清継はてっきり、鷹司智子(たかつかさ ともこ)卿か普段は職員に扮する総督の秘書官が出迎えてくれる者と思っていたが、
「貴方は…?」
ドアを開けて入って来たのは、見知らぬ男だった。そして、その後ろには、これまた見知らぬ女に…見知った男。
「落合殿、この方々は?」
見知った男、禍津日原基地司令官の落合航へ質問を向けた清継に対し、落合は些(いささ)か困ったような顔をした。
「えぇっとですね…その‥何と言うか‥」
チラっと顔を傍らの男に向ける。それに気付いた清継もまた男へ顔を向けた。
「・・・・・」
男は無言のまま一瞥している。そして、漸(ようや)く口を開いた。
「挨拶が遅れ失礼致しました、閣下」
踵を揃え、直立不動の格好となり、そのまま最敬礼をしたその男に、清継は一瞬見入ってしまった。そして、男は敬礼をして言った。
「自分は、敷島共和国幕府総本営所属騎兵 士大将(さむらいだいしょう)、上野衛二郎正斉と申します。現在は、殿下の御厚意により、禍津日原基地の警固を任じられております」
清継は瞬時に警戒した。敷島人の将兵が所属する「幕府」を名乗る軍勢とは既に会津で交戦経験がある。相馬氏と名乗る軍勢からの攻撃で、会津の村々は決して少なくない損害を受けていたのである。だが…。
「…殿下、とは。誰から聞き及んだのだ?」
「堯彦殿下より、直々に」
殿下が自ら引見したと言うこの男。では、果たして信用に値するのか?清継はそう考えていた。
「…で、貴女も、御挨拶を」
落合は色々気にしながら言葉を続けている。その様子を詰まらなそうに見ていた女は、上野の傍らへ進み出て、上野よりは幾分柔らかく構えて、敬礼をした。
「私は、幕府総本営所属騎兵差図役並、中野彰子と申します。上野の配下として、『鹿取隊』番校として任務に当たっております」