第2章 流転の刻に
―某所―
「お分かりかと存じますが、私は貴方様の下僕ではありません」
「そして、我達も北畠の援助等欲してはおらぬ」
「ええ、存じております。ですから、常日頃から申し上げております様に、私は総督閣下には親愛の情より、そして銀の姫君には人生の先達として、ささやかな助言をさせていただいておるのです」
「ふん。それが、大阪で膝を突き、頭を垂れる事なのか?」
「一度下げれば後は二度いらぬ事です。彼の者は大阪で、彼の者の世界で大分苦労して得た街の様ですがね、その大阪で現実を知って頂きましょう。既に大関閣下には御内諾を頂いております」
「どっちの大関だね?」
「どちらも、ですよ」
「ほう…」
「大関閣下は木津川口に幕府一番艦隊を展開しております。いつでも動ける、そう申されてました」
「それで、ウチの艦隊も出せ、と」
「有り体に言えば、その通りです。周参見(すさみ)殿の艦艇があると尚良いかと」
「周参見を?簡単に言ってくれる。まあ、委細承知した。やってやろう」
「有り難き幸せに存じます。さて、姫よ。姫君には上野君からの情報を頼りにして頂いて、出来るだけ派手に暴れて欲しいのですよ。勿論、貴方の御裁量でね」
「言ってくれますね、実態は貴方の…!」
「まあまあ、そうカッカなさらず。それに貴方は主義者がお嫌いでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうやら、一度この国は主義者に辱(はずかし)められた身であるようですから。それを立ち直らせてあげるのも宜しいかと存じます。貴方様の父上様なら立ち上がる筈です」
「‥‥‥‥‥分かりました。…へ向かいます」
「有難う御座います。それでは、お頼み申します」
「白々しい事…」
「ふん、全くだ。まあ、仕方が無いのはわかっている。しかし、食わされた分、別に食わしてもらうぞ」
「はい、結構です。それは私としましても好都合です」
「…。ではな、これで失礼する」
「それでは、良い夜を。御所の若殿様」
「おやすみなさいませ御両人。道中お気を付けて」
「さて、始めましょうか、主義者の方々よ。私達の生き方を教えてあげよう」