第2章 流転の刻に
一瞬・・・・・・・納得しそうになった。しかし、不審の塊だ。どこまで正しいのか。そう思うと二の句が告げない。どうやら、相手もそう思ったようである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
天河瑠璃は二人の会話を黙って苦笑いで見詰めていたが、次第に凍り付いたように沈黙する空間に嫌な物を感じた。
只、少なくとも動物的感覚で分かったのは一つ。この女は、危ない、極めて。
「…疑われるのも仕方無い。助けてもらった恩もある。だがの、若造」
そしてこの女は嫌な目付きで笑顔になった。対する大牧先生は表情を変えない。
「私に、その手の意思を向けてしまったのは極めて残念だよ。こちらもその感じは嫌いじゃなくてね」
その姿は、まるで狼。それも血と肉に飢えた、将に餓狼。大牧先生の凛とした姿とは比べられない程、邪悪な姿。
「この現実に、我という存在に納得してもらわねば」
口の端を釣り上げて。まるで、今からここに居る全てを喰らう積りかのように。この女は一刻一刻と変わって行く。先生は…変わらない。
「困るのだ」
さっきまでのふざけた感じは一瞬で消え失せ、殺気と凶気が狭い空間へ一気に満ち渡る。それでも、大牧は落ち着いていた。修羅場自体は御手の物だ。だが、これは違う。目の前に居るのは、人の身にして、人ならざる怪物。これが彼女の言う〈敷島人〉の標準ではないだろう。だが、これを飼っていて機能している国だとするなら、敷島は確かに日本ではない。思想や政治が人間社会の最高位に必ずしもあるわけではない。暴力と闘争の国なのだろう。そして、自分達はそのような連中と対して行かないといけない。
不安以上の何かが心をよぎった。