第2章 流転の刻に
…さて、〈日本〉に降り立ってしまったか。
相賀誉は首を鳴らしながらおもむろに寝かされていたベッドから起き上がり、年寄りのような溜息をついて周りを見渡した。先程の自分の言葉に驚く者達。聞き及べばここは既に自分の知っている日本ではない。となると、死後の世(あったらだが)に会うつもりでいた夫 武内征禰やその「側室」レアにも、戦友達にも会えん、という事だ。いやあ、至極残念。誉は自分を奇人のように見ていたオオマキなる女が、外の誰彼から聞き及んだ話で、自分達の事を理解したようであるのを察した。再び入って来る女の顔を見てすぐに分かった。案外物分りが良いようだ。誉は感心した。
「誉さん?幾つか宜しくて?」
「はいはい、どうにでもしてくれなんし」
「…御職業は遊女かしら?」
「時間と寝ている女って考えればそうかもしれないね」
「で、副業は?」
「うーん…履歴書にするとノート一冊分位になるけど…聞く?」
「…直前の、一番重要な職歴で結構です」
「まあ、そうね。…一応軍人ってとこかしらね。あ、因みに敷島では軍の制服組は〈番方〉で言うのよ。将校は番校、兵士は番士。法的扱いは共に番士ね」
「番士はつまり軍人って意味ね」
「そう。で、私は幕府中央軍騎兵番校。階級は騎兵頭取締」
「…どれくらいの御役職に?」
「レジマンのシェフを顎で使って、将軍に小突かれる役」
要するに、上級大佐か旅団長って所かと大牧は理解した。しかし、こうも簡単に色々聞けると拍子抜けだ。てっきり、色々必要かと思っていたのだが。
「失礼ですが、年齢は?私とそう違いはなさそうですが」
「嬉しい事いってくれるねぇ、お嬢ちゃん」
お嬢と聞いてあの子を思い出した。しかし、歳を皮肉るとは、死にたいのかしら?
「まあ、ざっと…300歳かしら?あんまり覚えてないのよね~」
よし、脳味噌分割してあげよう。大牧は目の前の可哀想な〈娘〉をどうイタワッテヤロウカを考え出した。
「…冗談に聞こえたのならゴメンナサイネ」
ユルサナイ、ゼッタイニ。その如何にも悪そうに思ってない面もシャクニサワル。
「しかし、怒る事も無いんじゃない?あたしらがここにいるって奇跡を考えれば」