• テキストサイズ

RISORGIMENTO

第2章 流転の刻に


 「伊勢国司」を名乗る伊勢守護北畠氏の親類衆である大河内具家は策謀で知られる幕府軍頭取の一人である。その智謀と戦上手は若くして幕府軍将官の最高位である、頭取に成った事からも証明できる。独立以来伊勢の軍事支配を行い、敷島政府の武断統治を支えて来た北畠一族の親類筆頭として確固たる実力を持っていた大河内御所家の次期後継者は、この時代に何を見るのか、そして元居た世界で起こしたように、この度は一体何を仕掛けて来るのか。彼を認め、そして警戒していた尊景入道はこの混乱を利用しない大河内ではない、と踏んでいた。

「長俊、京と近江(おうみ)に人を遣わせ。京には鳥羽の五郎左、近江には河合吉宗を」

「…接触しますか、敢えて」

「無論だ。恐らく家景の奴もそうしているであろう。だが、人質とされるやもしれぬ」

「えぇっ!」

 目を瞑って黙って聞いている宗景をよそに、歩美が驚愕の声を上げた。尊景入道は家景や京に居る朝倉の者達を心配し不安の余り半泣きになる娘をたしなめる長俊を制し落ち着かせながら諭した。

「人というものはそのように小賢しい所もある。皆が業を孕んで生きておるのだ。敷島人のみならず、この度の〈時駆け人〉も同じ事だ。大河内具家も然り、あの方広院和泉とやらも然りぞ」

「で、でも入道様は、いつも人を慈しんで生きなさいって…」

「左様、その様に申した。それに偽りは無い。人の本性が業深き者であっても、歩美は知っておろう、人の良さを」

「はい、私は‥大好きです」

「それを慈しんでおやり。そして愛してやりなさい。然れども、我ら武士の子達はそれと共に何人をも疑い、深き業を見通して生きねばならぬ。生き残らねば、人の何たるかは分からぬ。まして生き残れもせねば、何も得られぬ。生きてこそ、死へと向かう人の身の有り様がわかる。その為には勝っていくしかないのだ。…まあ、これは故人の受け売りだがな」

「受け売り?」

「武士(もののふ)は犬とも言へ、畜生とも言へ。勝つ事が本に候。朝倉の祖の一人、朝倉宗滴公の御言葉だ」

 長俊は笑みを浮かべて誰に言うでもなく言った。

「さあ、下野の婿殿にもお伝えせねばならんな。見せてやりましょう、異世界の者共に。我ら武士(もののふ)の生き様を。味わってもらいましょう、我ら武士の力を」
/ 95ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp