第2章 流転の刻に
只々問い掛けた。叱り飛ばしたとは言え自身の可愛い子供達である。できれば兄妹で責め合うような様は見たくない。この諫言は願ってもない程であった。まして―独立以来の「決まり事」で自治都市国家となっていた出雲の国人でわけあって那須家に亡命した―後退戦の名人 黒正弾正がそう言うのである。願ってもない。そしてこの空気の中、発言に責任が伴う誠清も極々自然に自分の主へ端的に述べた。
「はい、誠に敵ながら天晴れかと」
「そうか、そうであるな。藤綱、もう良い。これで実子も分かったであろう」
「…はっ」
「みのりよ、此度の事、夢々忘れるでないぞ。よく学び二度同じ過ちを犯すな。良いな!」
「…はい。もう‥しわけありませんでした」
みのりの背を傍らの宇都宮軍重臣 多功綱直がポン、ポンっと軽く叩いて慰めた。僅かに叩く音が聞こえたが、誰も何も言わなかった。
那須資高は納得した邦綱―その内心は敢えて考えないで置いたが―にホッと息をなで下ろした。そして、透かさず話題を変えた。
「それにしても、変わった連中だった。あの露出の多い女武将、あれは一体なんぞ?」
「まさしく、痴れ者でしょう」
父の言葉に倅が応じた。
「某の与力である遊佐等は大分怒っておりました」
「儀十郎はムスリム故、仕方あるまい。あやつは確かスンニ派かな?」
「…ほどよく原理主義でありますがな」
親子はそう言い終えて小さめに溜息をついた。遊佐の配下はトルコ人ムスリムで多くを占められていた。この度の件では景高が大いに苦労したのだ。
「学生のような者もおりましたな」
那須景高隊付小荷駄役頭である那波半兵衛資経は咄嗟に撮影した画像を横にいた佐竹に回した。
「金髪の娘か」
「左様。しかし、目つきは鋭い。もしや大物かもしれぬ」
義繁と資経がそう語り合う中、景高は「金髪の大物の女」と敵・味方の何れの立場でも出くわした事を思い出した。義繁の隣に居た平六郎景胤は景高に呟いた。
「藤綱殿の見た星川某と似ておりまする。もしや、親子かもしれません」
「…だとすれば、平六郎は如何する?」
「我が国の法に従えば、彼達は野盗に相当。捕えて、その首を斬ります」
「…また、一致したな」