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RISORGIMENTO

第2章 流転の刻に


 見渡す限り戦場は屍人で埋まり、そろそろ虫共が味を堪能しに来る頃である。ポツンポツンと落ちて来た粒が、それこそ返り血でも洗い流せそうな程に増して降り出すと、堪らず那須下野守資高も宇都宮中務大輔邦綱も陣幕に下がり、それを見届けて那須与一郎景高は漸く陣幕に入って腰を落ち着けた。上座に腰を据える父と邦綱はやれやれ、と一息ついた所だが、与一郎景高にはまだやる事がある。番頭、この場合では一般に言い換えれば野戦指揮官を指す役に就いている彼に休息は遅くやって来る。目の前に積んで見える程の仕事にうんざりするでもなく、ただ時間だけは惜しかった。できれば戦処理の評定はさっさと済ませたい。これは陣幕の内にある指揮官達には暗黙の共感であった。

 甲斐甲斐しく茶を淹れて来た千景に礼だけ述べて与一郎景高の目は眼前の友で、先頃の戦で傷を負った宇都宮実子に向けられた。

「かすり傷で安堵した」

「それ、私が言う事じゃないかな?アンタはもっと他に言う事があるんじゃなくて?」

 実子の不満と諦感の混じった言葉に、うむ、とだけ言う間考えた与一郎は表を向き直して、

「しかし、傷は武勇の証である」

 と言った。これには実子も傍らの平六郎、源三郎、そして隊付警固役頭 六角承三郎頼義と那須家親類で副番頭 那須大膳大夫景常も、更には上座の両人までもがはっきりと聞こえる溜息をついた。

「…皆して如何致しました?」

「…私、やっぱあんたの隊には入りたくないわ、うん」
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