第2章 流転の刻に
早太郎は一通り辺りを見回して、傍らの冷血人に話し掛けた。
「腕はそこそこ、といった類だったがこの者共、いやに士気の高い事だった」
「ええ、そうでしたね」
「それに、背を向けて死んだ奴がおらん」
「まるで、三河武士のようだ、とおっしゃりたいのですか」
「…つくづく、癪に障る奴よの。まあ、そういう事だが」
「退かぬだけなら、あのチグリスの対岸にいたエラム人共も同じです」
視線も合わせず、ただ先を見詰めてラルフはさらっと言ってのけた。
「督戦兵は見当たらぬ。…死人の誉れに泥を被せるが如き真似は見過ごせんぞ」
早太郎の眼に明白に怒りが見えて来た。その事を横っ面を刺す視線で感じ取ったラルフは先程その死人を虫けら呼ばわりした事をどこぞへ飛ばした早太郎にうんざりした様子で、やや声を張って放つ。
「安易に敵を賛美する事もありますまい。何せこ奴らは」
「郷を侵した敵だからか?」
「…まあ、そういう事です」
ラルフは早太郎に詰まらぬ仕返しをされて、顔を平静に整え、前へ踏み出した。あからさまな不機嫌さである。得意な顔になった早太郎もこれに続いた。前にはまだ息のある敵がいる。どうせ一端に尋問も叶わん下郎しか残っていないのだから、
「せめて、楽にさせてやれ」
偽らざる、彼達の「温情」である。