第30章 IF遙か3~復活~戯言編3(薬師視点・人識)
人様のお家で一人暮らしという、なんともおかしな生活にも慣れてきたある日のお昼前。
ガチャリ玄関の扉が開く音と共に現れた……久しぶりに見る、この部屋の主である少年の姿につい目を丸くしていると。
まるで散歩帰りのように、気楽で身軽な様子で人識くんは「ただいま」の言葉を口にした。
「おかえりなさい、人識くん。今回はいったい、どこまでお出かけしていたんですか?」
「ちょっと京都まで、自分探しに」
「随分とまた遠くへ探しに行ったものですねぇ。わざわざ探さずとも、人識くんが人識くんであることは変わらないでしょうに。そういえば京都といえば、連続殺人事件とかありましたよね。世の中も物騒になったもので…………まさか」
思わずジトリ。
変わらず見た目は可愛らしい彼に、半ば確信めいた疑いの目を向けてしまう。
「なんだよ?その死んだ人間が自分の生死まで疑うような目は」
「どんな目ですか。いえ、べつに人識くんがどこで何をしようが勝手なんですけれど……あまり、危ないことはしないでくださいね」
「心配すんなよ、人間いずれは死ぬもんだ」
「そうですけど、普通そこは大丈夫だと安心させるところじゃないんですかね?人識くんに死なれでもしたら、路頭に迷ってしまうので困るんですよ」
「そっちの心配かよ!あーあ、喜んで損したぜ」
「もちろん、人識くんがいなくなったら寂しいので、身の安全に対する心配もしていますよ。それはもう特盛で」
「はいはい、そうかよ。あー、腹減った」
「そ、そうですね!材料もありませんし、今日は外食にしましょうか」
しまった、ちょっと不機嫌そうです。
慌てる内心はしっかり隠しつつ、かわいいかわいい人識くんの背中を手の平でそそっと押しながら、一緒に外へ出る。
しばらく放浪している間、どんな物を食べていたのやら……未来の糖尿病患者まっしぐらな食生活していなければいいのですが。
とはいえ、急に人識くん好みでおいしく健康的な手料理を振る舞えるほどの腕前はないので、明日から気をつけるとしますかね。