第29章 IF遙か3~復活~戯言編2(薬師視点・人識)
「一人分しか作りませんからね……あ、人識くん。クリームついてますよ」
「あ?」
なんですか、ドジっ子ですか、かわいいですか。
口いっぱいに頬張ったりするから、クリームくっつけたりするんですよ。
見当違いな場所を手でごしごし拭う人識くんのかわいい姿を少し眺めてから、ここですよ。とティッシュで拭きとった。
「そこは指で拭って舐めるところじゃねぇの?」
「昔の漫画ですか。そんなベッタベタな展開をお望みでしたら叶えて差し上げないこともないですけど、どうします?」
「真面目にどうするか問われると、反応と対応に迷うもんだな」
「迷うんですか」
「そりゃ、せっかくのお誘いだし迷うだろ。さて、どうしたもんか……」
困った、困った。なんて、まるで興味のない顔で言いながら彼は玄関のドアを開けて。
「お出かけですか?」
「悩みついでに散歩してくる」
「気をつけて、いってらっしゃい」
「おー」
安全靴を履いた人識くんは、背を向けたまま手をひらひら投げやりに揺らすと、静かに足音も立てずに部屋から出て行った。
結局、どうするかは聞けずじまいでしたねぇ。
まぁ、放置されるのも何を考えているのか分からないのも彼に関してはいつものことなので、悩んだり深く掘り下げるだけ頭の無駄遣いだ。
それより献立をどうするか、そちらに頭を悩ませよう。
「米粉のお好み焼きにしましょうかね、お野菜もとれますし」
残った粉を使って、明日はクレープ生地を焼くことにしましょうか。
あと、低糖質スイーツのレシピを少し調べてみよう……と増やしたレパートリーをお披露目できることになるのが、まさかひと月も後になるだなんて思いませんでした……。
散歩だって言ったじゃないですか、食べると言ったから用意した材料がもったいないでしょう。
せめて一言告げてから放浪の旅に出てくださいよ、気まぐれ猫ちゃんですか?かわいいな!
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薬師さんと人識くんの生活風景の一部でした。
詳しい表現はあえてしませんでしたが、サラッとしれっとやることやってしまう人識くん。
けれど、はたして二人に恋愛感情なんてものが生まれるかどうかは永遠の謎かもしれない。
人識くんによる放置プレイは日常茶飯事。