第36章 事故チューその後・参（薬師視点・政宗）

思い返すと、なんだか謙信様に申し訳なくなってきました。



「そういや……面白い噂が耳に入ったぞ」

「面白い、ウワサ…？」

「ああ、聞きたいか？」



こちらを見てニヤリと口端を上げる政宗様。

それに反射的に返した私の笑みは、きっと引きつっているに違いない。

ここ最近で馴染んできた嫌な予感が、じりじり迫ってくる感じがします。



「できれば、あまり聞きたくないような…」

「ここで昼寝をしていると、優しい薬師様が Kiss で起こしてくれるそうだ」

「っ！？」



こいつ、この人、このお方はっ……

聞きたくないと言った瞬間、内容をバラしやがりましたよ！？

なんて人ですかっ、酷いっ、かっこいいけど！

意地悪ですっ、このドＳっ、素敵ですけど！



「さて、俺も少し寝るか……一刻ほどしたら起こしてくれ」

「え？」

「夜は宴会だからな、今のうちに休む」

「は？」

「優しく起こしてくれよ、頼んだぜ」

「あ…」



反論する間もなく、政宗様はその場でごろんと横になってしまった。

もう閉じられた瞼が開くことはなく、すぐに規則正しい呼吸音が聞こえてきて。



「……参りましたね」



思わず溜め息がもれる。

優しく起こせって……きっと、そういう意味なんでしょうね。

私が簡単な異国語ならわかると、政宗様には出逢ってすぐに気づかれちゃいましたし。



「まったく…………眠り姫ですか、あなたは」



お望み通り、優しい目覚めのキスをして差し上げましょうか。

ただし、「頬に」ですけどね。




●・○・●・○・●

奥州から独眼竜、登場。噂を耳にして、ちゃっかりキスを要求して成功する人。
二人の間に恋愛感情はありませんが、さらっとハグできてしまう良い関係です。
なんだかんだ結局やるんかーい！やっちゃうんかーい！な薬師様でした。
役得役得。