第29章 IF遙か3~復活~戯言編2(薬師視点・人識)
「……今度は味、わかったかよ?」
「……はい、おいしかったです」
手作りにしては、なかなか美味しくできたのではないでしょうかね。
果物やトッピングをケチらなくて正解でした。
「はっ、そりゃよかったな」
「あの、人識くん」
「ん?」
「ごちそうさまでした」
なんと言いますか、色んな意味でおいしかったです。
その言葉が予想外すぎる返しだったのか、人識くんは綺麗な赤い瞳をかわいらしく丸めてから、かははっ……とひきつった笑い声をこぼして。
「傑作だぜ」
愉快そうに口の端をにやりと上げた。
まさかこんなご褒美があるとは思いもよりませ……げふん、げほごほ。
……謙信様、つい煩悩のままに喜んでしまい申し訳ありません。私は未熟者にございます。
心の中で反省しながら、今ばかりは、ここにかすが嬢の存在がないことを嬉しく思ってしまう。
さっきのような場面を目撃されたならば、謙信様という尊きお方のお傍に居ながらその体たらくはなんだ!と激昂され、数日の間は昼夜問わない命を懸けた強制鬼ごっこが開催されていたに違いありません。
「ここは平和ですねぇ」
「俺といてそんな台詞を吐き出すやつなんて、夢姫くらいだろうな」
傑作、傑作。
気分良さげにお馴染みの言葉を続けて、意外にも食器を片付けはじめる人識くん。
その背中を追いかけて流しの前に立つと、はたして今のは褒められているのか貶されているのかと疑問に思いながら、洗われた器やスプーンなどを布で拭いてから適当に備え付けの棚へ置いておく。
放浪癖があるからか、あまり物がないんですよねぇ……しまっておく場所もまた無いときました。
さて、今日の夕食はどうしましょうか?
「プリン食いすぎて腹いっぱい」
「一気に全部平らげるからですよ……」
当たり前だ。何人分食べたと思っているんですか?
持ち上げたらけっこうな重さがありましたよ、あのプリン・アラモード。
「明日はパフェとクレープな」
「まだ食べる気ですか」
「甘いものは別腹ってよく聞くだろ、明日なら余裕で入る」
そんな余裕はいりません。
この少年、甘党にもほどがあります。