第29章 IF遙か3~復活~戯言編2(薬師視点・人識)
「……しかたねぇなぁ、ほら」
「……はい?」
無言で人識くんを見つめていたら、あと残り少しといったところで何を思ったのか食べるのを止め、プリンをすくい上げたスプーンをこちらへ差し出してきた。
わけがわからず目をぱちぱち瞬かせていれば、ガッと顎をつかまれ強い力で頬を両側から押され、強制的に開かされた口の中へスプーンを乱暴に突っ込まれる。
驚きに目を白黒させつつ、頬から手を離され反射的に口を閉じてもごもご動かすと、金属の固く冷たい感触と甘いプリンの味を感じた。
「うまいだろ」
「ふぷーん、ぬいひぇふふぁふぁい(スプーン抜いてください)」
下手に自分でどうにかしようとして喉の奥へ入ったら危ないので、スプーンをしっかり噛んで歯で固定しながら答えると、人識くんは面白そうにかははっと笑いスプーンを口から抜いてくれた。
「悪い悪い、それで?お味はどうよ」
「プリンと金属の味がしました」
「それだけか?」
「いきなりスプーン突っ込まれたのに驚いて、味わうどころじゃなかったんですよ」
「せっかく分けてやったのに」
「そんなことを言われましても……」
あんなに恐ろしい『あーん』は生まれて初めてだったんですよ。
むしろ『あーん』じゃないかもしれません。
この先なにか罷り間違って、もしもどこかの誰かに人様に、人識くんが手ずから食べさせるようなことがあった時。
さきほどの私のようにされてしまっては相手も驚くだろうし、それで非難されたら人識くんも嫌な気持ちになるかもしれない。
当たり前のようではなく当たり前に何事もなく人を殺してしまうのは、もう仕方がないことだけれど。
仮にも恩人である彼には、できるだけ気分よく日々を過ごしてもらいたいと思う。
現在から、私の関係することのない未来の先まで。
本人からすれば余計なお世話のお節介な考え事に耽っていると、横から肩を叩かれハッとして人識くんに目の焦点を合わせようとした。
のだけれど……何故か視界が暗くなり、焦点を合わせるどころか姿を認識することすらできない。
何事かと状況を把握する前に、熱をもった何かが唇に触れて口の中の隅々にまで様々な種類の甘さが広がった。
甘い、甘い、甘ったるい。