第29章 IF遙か3~復活~戯言編2(薬師視点・人識)
そろそろいいかな?と混ぜる手は止めずに火を止めて、スプーンでちょこっとすくったカラメルを人識くんの口元へ差し出す。
「甘さが足りないんじゃねぇ?味的には悪くない」
「ほろ苦いくらいで、ちょうどいいんですよ。甘いプリンとクリームにかけるんですから」
悪くない味なら問題はないので、冷蔵庫で冷やし固めておいた大きめプリンを器にひっくり返すと、生クリーム……は高いので、植物性のホイップクリームを周りにムニュッムニュッと絞っていき。
人識くんが適当に買ってきてくれた果物を、洗って食べやすい大きさに切り分けると、自分で盛りつけるよう頼んでみる。
「あ、リンゴはうさぎさんにしましょうか?」
「子供かよ」
「まぁまぁ、見た目も美味しさの一部ですよ…………はい、どうぞ」
「へぇー、案外手際がいいな」
「それなりに慣れてますから。でも、人識くんの方が上手に切れそうですよね」
「どうだろうな?ナイフなら使い慣れてるけど、わざわざリンゴをうさぎに切ろうと思ったことはねぇからな」
たしかに。わざわざ他人の為に自分の為に、ナイフでちまちまリンゴをうさぎさんに切り分ける殺人鬼なんて、いたらいたで怖い気が…………あ、人識くんなら平気ですね。
想像したら、なんだかほのぼのしました。
「くふふ……」
「いきなり変な笑い方するなよ、手元が狂うだろ。さっきのソースは?」
「はい、これです。トッピングはどうします?クッキークランチとウエハースがありますけど」
「もちろん両方」
「そうだ、カラメルソースかけすぎると甘さがなくなりますからね?気をつけ」
「なっ、もっと早く言えよ!」
慌てたように大きな声を出した人識くん。
その手元にある特大プリンを見れば、どうやら欲張ってしまったらしくクリームにまでどっぷり手作りカラメルがかけられていた。
ああ、これは、少し苦いかもしれません。
味のバランスなど考えず、人識くんの言うように甘めに作ればよかったと思うも、時すでに遅し。覆水盆に返らず。
なにか打開策はないものかと首を傾げて考え、冷蔵庫から明日の分のプリンを二人分と、余っていた板チョコを取り出した。
「人識くん。なんとかしますから、大丈夫ですよ」
自分よりも低い位置にある、小柄な彼の頭をぽんぽんと撫でて笑いかける。
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