第29章 IF遙か3~復活~戯言編2(薬師視点・人識)
謙信様。
びっくり能力者大集合のマフィアな世界から、これまた裏社会の人間がゴロゴロ転がっている物騒な世界へきてから、早くも一週間が経とうとしております。
現代日本で戸籍もなしにどう生活していけばいいのか、本来ならば警察などに気を付けつつ野宿をしながら悩むところでしたが。
不運の良いことに血統書つきの殺人鬼の方と遭遇し、運の良いことに殺すのを見逃してもらえたようなので、ここぞとばかりに命をかけて調子にのって、無事に見事に居住地を確保することができました。
「人識くんに出遭えて、本当によかったです」
リクエストされた特大プリン・アラモードにかけるカラメルソースを、急きょ100円ショップで調達してきた小鍋で作りながら思わずしみじみ呟くと。
待ちきれないといった様子でソワソワしている人識くんが、よく整った顔をおかしそうに歪めてみせた。
「本当に本気で心底そう思ってるのか?」
「本当に本気で心底そう思っていますよ。最初に遭遇したのが村人Aではなく、非常識な存在で常識人な人識くんで助かりました」
「非常識な存在はともかく、殺人鬼を常識人呼ばわりかよ」
「だって人識くん、誰かを人質にとって逆らえない状態で、鬼畜な条件をつきつけてきたりしませんし」
「ナイフなら問答無用でつきつけるけどな」
「かわいらしい小動物を餌に、徹夜で強制労働させたりもしませんし」
「面倒になったら、拾った場所まで強制連行するつもりではあるぜ」
「返事の代わりに銃口を向けられることはないし、いちいち出された料理に毒消しする必要もないし、大量のボケに突っ込み疲れすることもないし、ドジッ子の不運やミスに巻き込まれて恥辱を味わうこともないし、身の回りのことは自分でなんとかできるし、意外と面倒見いいし、優しくないけど優しいし……」
「おねーさん、どんなところで生きてきたんだよ?」
「たぶん、ギリギリ普通の一般世界です」
「それ絶対、嘘だろ」
嘘ではありませんよ、だって私自身は一般人の筈ですから。
少し前まで、スリルとショックとサスペンスの多い世界へちょこっとお邪魔していただけです。