第28章 IF遙か3〜復活~戯言編1(薬師視点・人識)
「いやあ、傑作、傑作。今日ほど気持ちのいい夜もないだろうな。今なら殺しも解しも並べも揃えも晒しもせずに、一生過ごせるような気がするぜ。正夢が実現するくらいの確率で」
「それって、ほとんどそんな気しないってことじゃありませんか?」
「まぁ、そうとも言う」
笑っていたかと思えば、急に真面目な顔でしれっと答える。
感情と表情がころころ変わりますね、こういうタイプは何がどんな琴線に触れるかわからないので少し怖いのですれど。
……ま、まぁ、笑顔がかわいいので良しとしましょう。
可愛らしい少年にキラキラした眼差しで手を握られて嬉しいだとか、そんな邪な想いではありませんよ?違いますからね?
というか、とても日常に相応しくない不穏な単語が耳に入った気がしたのですが…………いえ、気のせいですね、気のせい。
私はなにも聞いてない、知らない、気づいていない。
「さってと―――じゃあ、俺はそろそろ移動するか。さっきは、無い無い尽くしだなんて言って悪かったな?少なくともあんたには、俺という趣味を同じくしたやつの存在と、これから先の時間は有ったってわけだ」
「いえ、どうぞお気になさらずに」
ところで、これから先の時間ってどういうことでしょう?
もしかして私の未来ってば、ぺらっぺらの紙一重で失われるところだったんですかね……。
そこでふと思い出し、視線をチラッと、血の臭いが空気に混じり流れていた先へと向ける。
「ああ、そうだ。こんな夜更けにこんな暗闇でこんな裏路地をうろうろするなんて、危ないからやめといた方がいいぜ。おねーさんみたいな運動神経切れてるどころか死んでるようなやつ、飛んで火に入る夏の虫よろしく猛獣の前に怪我で流血した状態で現れてさあ襲ってくださいって言ってるようなもんだからな」
「長すぎて後半は頭に入ってきませんでしたが、ご忠告ありがとうございます。これからは気をつけることにしますね」
べつに好き好んで、こんな場所を夜にうろうろしていたわけではないのですが。
運動神経うんぬんはともかく、親切心だと思って受け止めておきましょう。
「ああ、そうしろよ。じゃあな、おねーさん」
「はい……あっ、ちょ、ちょっと待ってください!」
背中を向けた少年をのんびり見送ろうとして、貴重な連絡手段のことに気づき慌てて腕をガシッとつかむ。
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