第28章 IF遙か3〜復活~戯言編1(薬師視点・人識)
珍しくヒールなんて履いていたのが悪かった。
自分の運動神経のなさを考慮せず、勢いよく半回転しようとしたのが間違いでしたよ。
ぐらりとバランスを崩してよろけた右足首が変な痛みをうったえて、瞬時にその場でうずくまる。
グキッて……グキッていった!!
「くっ……地味に、痛いです……」
捻ってはいませんけど、けっこう痛い。
すぐに歩こうとしても、ひょこって足引きずるやつですコレ。
うっかり数秒前の死亡フラグも忘れかけて、足首をさすっていると。
「かははっ……見事なまでの運動神経のなさだな。後ろ向くだけで足首痛めるなんて、そんじょそこらの運動音痴じゃ真似できないぜ」
後ろの方で奇妙な笑い声が響き、ついで聞こえた人を貶すような面白がるような言葉が、徐々に近づいてきて。
ぴたり、すぐ背後で止まった。
心臓の音が、ドクドクと耳の奥で大きく鳴っている。
あの……人の気配まるでしなかったんですけど!?
「大方逃げようと焦って勢いつきすぎたんだろうが、残念だったな。これがほんとの足止めってやつ?タイミング良すぎて運が悪かった……いや、悪いんじゃなくて無いのか。無い無い尽くしだな、ご愁傷様」
暗がりの中、背後から聞こえる場違いなほど楽しげに聞こえる声と、言葉遊びのような台詞。
よくもこんなペラペラと滑らかに、流れる水のごとく言葉が出てくるものですねぇ。
無い無い尽くしって、なんでしょう?
運が無いと、あとは……ああ、運動神経が無いとか言ってましたね。って、余計なお世話ですコノヤロー。
ついさっきまで恐怖を感じていた筈なのに、頭は異常に冷静に回っていた。回りすぎていた。
一種の現実逃避でしょうか?感覚が変に麻痺して、怖さより何よりいったい誰だという好奇心が勝って。
ゆっくりと首を動かすと、見えたのはゴツイ安全靴。
さらに目線を上げて確認した姿に、思わず目をぱちぱち瞬かせてしまいました。
「…………男の子?」
「なんで疑問形なんだよ、どこからどう見ても男だろ。俺ほど男らしいやつも、そうそういないんじゃねぇかってくらいには」
「中身は知りませんけど、見た目はどちらかと言えば可愛らしい感じかと」
「しっつれーな、おねーさんだな」
つい、いつもの調子で突っ込みを入れると人影はまた、かははっと笑う。