第17章 遙か3な世界へ・伍(薬師視点・白黒神子・弁慶・ヒノエ)
「・・・弁慶さん、私は・・・・・・もしかして、倒れてしまったんでしょうか」
「ええ、なかなか戻らないあなたを皆心配して。四人が部屋で待機して、残りの六人で温泉の方へ行ったんですよ。さすがに女性向けの脱衣場へ僕らは入れませんから、そこからは望美さんと朔さんに任せていたのですが・・・」
「・・・・・・」
「お二人の焦ったような声が聞こえてきたものだから、驚きましたよ。どうも話を聞けば一糸まとわぬ姿で倒れていたと言うし、どうしたのかと思いました」
「・・・すみません」
「いいえ。あまりの警戒心のなさに多少は呆れもしましたが、とにかく何事もなくて本当によかったです。ええ、本当に、ただの湯中りでよかった」
「・・・・・・大変な面倒をかけたようで、申し訳ありませんでした」
「はい。―――それで?」
「以後、気をつけます」
「お願いしますね」
丁寧な言葉遣い、キラキラと輝く笑みに隠された小さな棘が痛いです。
とげとげチクチク、トゲトゲちくちく。
ひとつひとつの威力は低くとも数が多いので、けっこう身に堪えます。
これってやっぱり、弁慶さんはわざとやってらっしゃるんでしょうね。
うぅ・・・・・・顔だけ見れば、素敵な笑顔なのに。
口調と喋り方は、とってもとっても優しいのに。
内容がちっとも心に優しくありません!!
皆さん、どこへ行ってしまわれたんですか?
お願いですから、今、私をこの方と二人きりにしないでくださいよ。
逆上せが引くどころか、思いきり湯冷めしそうですよ。
弁慶さんがまとっている冷ややかな空気に、風邪をひきそうな勢いで熱が下がっていくのを感じます。
・・・とりあえず、もう一度だけ謝っておきましょう。
「あの、弁慶さん」
「・・・なんですか」
「本当に、ごめんなさい」
謝った途端、それまでの弁慶さんのかたい雰囲気が消えるのがわかった。
ふぅ・・・と、目を閉じて吐き出されるため息に、本気で心配をかけたのだと気づいて年甲斐もなくはしゃぎすぎた自分を恥じる。