第16章 遥か3な世界へ・四(薬師視点・白黒神子・ヒノエ・弁慶)
ほかにも、こっそり順にかいでいくと。
朔さんからは、上品で落ち着いた香の匂い。
望美さんからは、ほのかに甘い香り。
敦盛さんからは、上品ですっきりとした香り。
九郎さんからは、爽やかでさっぱりした香り。
景時さんからは、シャボンに甘さを加えたような香り。
リズさんからは、甘いけれど落ち着く香り。
譲さんからは、美味しそうな匂い。
白龍くんからは、自然の香りがしました。
譲さんの美味しそうな匂いはきっと、毎日のように調理を担当しているせいでしょう。
白龍くんのは……龍神、だからですかね………たぶん。
なんかこう、マイナスイオンが発生している森林の中…みたいな匂いなんですよ。
さすがは龍神様、とでもいいましょうか。
……うーん。
個人的にはやはり、ヒノエさんの香りが好みですねぇ。
うん、いい香りです。
「ふふっ……大胆だね、夢姫」
「…え?」
頭上から突然、甘さを含んだ色気たっぷりの声。
「わわっ、夢姫さん!?」
「夢姫殿!?早くこちらへ!」
「…は?」
望美さんと朔さんの慌てたような声が聞こえて、頭に疑問符を浮かべていると。
するり…慣れた手つきで、私の腰にまわされた二本の腕。
目で辿っていけば、行きついた先は細身だけれど引き締まった体。
さらに視線を上げると、ヒノエさんの麗しいお顔。
その綺麗な紅い瞳に映った自分の姿が、妙に間抜けに見えて悲しく感じる―――というより、彼の存在の鮮やかさの前に、自分がいることが申し訳ない気がしてくるから不思議。
謙信様も麗しいお方でしたけれど、そのように思ったことは一度たりとてなかったのに。
何故でしょうか?………………ああ、そうか。
きっと、謙信様は私にとって。
自分と比べるのもおこがましいほど尊い人だから、ですかね。
ヒノエさんたちは、確かにとっても美しい人だけれど。
私にとって彼らは普通の位置にいる人間で、隣に並ぶ人たちで。
だからこそ、自然に比べたりもしてしまう。
悪いことではありませんよね。
必要以上に、自分のことを卑下したりしなければ。
彼らの存在は、良い刺激にはなっても悪影響にはならないでしょう。
うんうん、ですから今は。
思う存分、美形を堪能して目の保養をするべきです。