第10章 若君と女中(薬師視点・かすが)
「ああ、やはり、美しい目をしていますね……戸惑いを宿しながらも、強い光を感じさせる澄んだ眼差し。本当に…とても綺麗です」
「…そんな…わたしなど、若様のお目を汚してしまうような存在でしかありません」
どう言えば、その心の痛みを少しでも和らげることができるのか…。
再び悲しげに顔を伏せてしまう姿に、思わず手が伸びた。
「そんな悲しいことを言わないでください」
想像していたよりも柔らかく、手触りのよい金色の髪をサラリと指ですくように撫でる。
「少なくとも私は、あなたのその姿を好ましいと感じています。とても美しいと思います」
痛くないように、優しく、優しく、気をつけながら。
「誰がなんと言おうと、それが変わることはありません」
「若様…」
指先に心地よくからむ髪から、名残惜しく感じながらも離れて。
彼女の冷たい頬を温めるように両手で触れると、俯いたままの顔をそっと持ち上げた。
「どうか、信じてくれませんか?」
「……信じることは…難しい、です」
一瞬だけ合った目はすぐに逸らされ、困ったように眉を下げられてしまう。
「そうですか…」
「でも…あなたのことは、信じたい…」
桜色の唇がかすかに震えながら、ほろりと涙のようにこぼれた想いに。
胸がぎゅっと掴まれたように切なく、嬉しい気持ちで溢れた。
「ありがとうございます…それで充分です」
自然と笑みを浮かべて言えば、おそるおそる上げられた目と目が合い。
透き通りそうな白い肌が、少しずつ、秋のもみじの葉のように赤く、赤く染まっていく。
なんて愛らしい。
「あの、名前を聞いてもいいですか?」
つい見惚れてしまった恥ずかしさに照れながら、頬へ添えていた手を離して。
そういえばと聞いて返ってきた言葉、その名に。
「…かすが、と申します」
記憶と記憶のかけらが繋がり。
ああ、なるほど、そうですか…この方が。
驚きにぱちぱちと瞬きをし、ついで納得した。