第10章 若君と女中(薬師視点・かすが)
「ちょうど、のどが渇いていたんです。ありがたく、いただきますね」
湯呑みを受け取って、ほんの少し警戒しながら口をつける。
この世界では、暗殺という非現実的だったものがそこら辺にゴロゴロ転がっている為、今が休戦状態で一見平和だとしても、この類の警戒を怠ると命に関わってしまう。
「おいしいです」
にっこり笑って、ゆっくりお茶を飲んだ。
匂いや味に異常はなし。
これでも薬師の端くれですから、毒薬にも精通していますし、ある程度は体も慣らしています。
もし無味無臭タイプの毒だったとしても、すぐに死ぬことはないので大丈夫。
「新しく来た方ですか?」
「…はい」
「ですよね。一目見れば忘れられない、珍しい色の髪をしていますから」
「…普段はあまり、人の目に触れぬよう気をつけているのですが…このような姿を晒してしまい、申し訳ありません。目障りであれば、すぐにでもお暇いたしますので、どうかお許しください…」
あまりに自分の容姿を卑下する言葉に驚いて、すぐには返事ができなかった。
現代ならば、憧れ羨ましがられるであろうその姿は、戦国時代と類似したこの世界において褒められるものではない。
何者かはわからないけれど、こんなに年若く美しく可憐に見える女性が、孤独に苦しみそれを受け入れ自分の一部を否定しているなんて。
たとえ全世界が許そうと、私は許しません。
「誤解されるような言い方をしてしまって、すみません。あなたの髪が、とても美しく輝いているので……一目見れば、儚くも眩い月明かりのごとく、瞳に焼きついて離れないだろうと…そう思ったんです」
「そ、そのような、お戯れを…」
「戯れなどではありませんよ。どうか、こちらを見てください」
無理強いをしては意味がないので、お願いをしてじっと待っていれば。
ずっと伏せていた顔がわずかに上がり、戸惑うように揺れる瞳の中に自分の姿が映って見えた。