第10章 若君と女中(薬師視点・かすが)
「ああ、そうです。試しに作ってみた薬用の紅があるのですが、よければ使ってみませんか?ひび割れやカサつきを防いで、潤いを保ってくれる筈ですよ」
「いいのですか!?」
「ぜひ、いただきたいです!」
「わたしも!」
「お願いします!」
次々と声をあげる若い女中さんたちに、試供品として作ってみた薬用リップの入った貝殻を渡していく。
いつの時代も、女性が美しくありたいと願うのは同じなんですね。
薬草もどっさり採ってきたことですし、評判がよければ大量生産してみましょうか。
良い噂が広まれば、他国の姫様方からの注文も入るかもしれませんからね。
「大丈夫だとは思いますが、万が一肌に合わないと思った場合には、すぐ使用するのをやめてくださいね。あと、使ってみてどうだったか…色の好みなど、後で教えていただけると嬉しいです」
「お約束いたします」
「わかりました」
「ありがとうございます」
「では、わたしどもは仕事に戻らせていただきますね」
「はい。皆さん、お仕事がんばってくださいね」
明るい表情で仕事へ戻っていく女中さんたちを見送り、木々の見える廊下で少し涼む。
あー…気持ちいいですねぇ。
お風呂上がりでのどが渇きましたし、できればお茶がほしいところですが…もう誰もいませんよね。
仕方ないので、もう少しだけ涼んだら部屋へ戻って、お茶でも淹れようと思っていたら。
いつの間にやってきたのか、気配を感じさせずに一人の若い女中さんがお茶を持ってすぐ側で声をかけてきた。
「…若様、お茶をお持ちしました。よろしければ、お召し上がりください」
高く甘い、澄みきった声。
こちらでは珍しい、陽の光に透けて煌めく金色の髪。
伏せがちの顔はよく確認できないけれど、影を落とす長いまつげも同じ金色で。
見たことのない筈なのに、どこかで見たような気のする姿に、密かに記憶を手繰り寄せる。