第8章 酒は飲んでも呑まれるな(薬師視点・政宗・謙信・小十郎・かすが
闘争心をあらわにした凶悪な眼光に、ごくりと生唾をのみこむ。
しまった、言葉選びを間違えました。
「この俺が、簡単に斬られるとでも言いたいのか。Ah-?」
「…訂正します。凍てつく刃を向けられる覚悟があるなら、どうぞご自由に」
「Ha!面白ぇ、願ったり叶ったりだ。軍神を俺のもとに降してから、ゆっくりお前を手に入れるとするか」
「私よりも、謙信様との勝負の方が楽しみなんじゃないですか?」
本当に、心の底から楽しそうな物言いに、ぽろっと思ったことをこぼせば。
ニヤリ、大きく口角を上げた政宗様に、思わず呆れの含んだ目を向けた。
「勝負は勝負。それとこれとは別物だ」
「そうですか…」
遊びを楽しむ、無邪気な子供のような顔をしてくれちゃって……そんなに闘いが楽しいんですかねぇ。
幸村さんも、信玄公も、謙信様でさえも。
血気盛んといいますか、武将というものは、よくわかりません。
私としては、命を懸けた戦なんて御免被りますし、好きな人たちには怪我もしてほしくないんですけれど。
言ったところで止まる方々でないことは、嫌というほどわかっている。
「夢姫」
「なんでしょう?」
暖かい掌が、私の胸に当てられる。
額がくっつくほど間近で目を見つめられ、不揃いに切られた黒髪がさらりと顔をくすぐってくる。
「いいか、俺が奪いにくるその時まで」
真剣な色をした眼差しが。
「死ぬんじゃねぇぞ」
甘さの欠片もないその言葉が。
やけに胸に響いて。
のどがグッと詰まった。
「…努力はします」
無性に泣きたくなる気持ちを抑え、政宗様の手に自分の手を重ねると。
心臓の音が伝わるよう、軽く上から力を加えて、せいいっぱい笑ってみせる。