第8章 酒は飲んでも呑まれるな(薬師視点・政宗・謙信・小十郎・かすが
両手合わせて六本もの刀を扱う武骨で大きな手が、意外にも繊細な手つきで頬へ触れてきて。
謙信様とは違う、ざらりとした慣れない皮膚の感触に、違う人間だとあらためて認識すると心がざわついた。
「本気で嫌なら、抵抗してみせろよ」
「抵抗したら、やめてくれるんですか?」
「満足したら、やめてやらなくもねぇ」
「それって、やめる気ありませんよね…」
胡乱げな目を向けたら、それはそれは楽しそうに肩を揺らす政宗様。
どこからどう見ても悪役なんですけど。
そんな姿も、かっこよく決まるとか…美形は得だなぁ。なんて、うっかり見惚れてしまう。
「そんなに熱く見つめられると、本気で止めてやらねぇぞ…いいんだな?」
「いえ、すみません、よくありません」
唇を酒で熱くなった指の腹でなぞられ、理性とは真逆の位置にある煩悩というか本能が期待に震えるのがわかったが。
ここでそれはいけない、と。
なんとか堪えて、拒否の姿勢をとる。
「アンタの顔はそうは言ってないみてぇだが?」
「表情筋がおかしくなっているんですよ」
「目は口ほどにものを言うってな」
「気のせいです、気のせい」
また小さくフ…と笑った政宗様の顔が近づいて。
あまりの近さに、恥ずかしさもあって反射的に目を瞑ると、口の端に柔らかな熱を感じた。
「……今日はこれくらいで勘弁してやる。こっちを向いていない女を、無理やり組み敷くのは趣味じゃねぇからな」
「……ほんと、いい男ですこと」
「謙信贔屓のアンタに褒められると、悪い気はしねぇな。そのうち身も心も抱いてやるから、楽しみにしてろよ」
「わかりました。謙信様に斬られる覚悟がおありでしたら、いつでもどうぞ」
軽い口調に同じく軽く返したら、右目とは違い、眼帯で隠されていない左目がギラッと鋭く輝いた。