第8章 酒は飲んでも呑まれるな(薬師視点・政宗・謙信・小十郎・かすが
「そう不安がらなくても、あの様子なら大丈夫だ」
「でもっ」
「アンタなら、倒れてからでもその力で治すことは可能だろ」
「それは、そうです、けど…」
でも、できるなら倒れてほしくないじゃないですか。
「俺だって、さすがに酒で武将を殺ろうなんざ思っちゃいねぇ。それに、あの軍神が易々とそんな策に嵌まると思ってんのか?」
「…思いません」
「ちゃんと、危険がないかわかった上で飲んでんだよ。大切なら、もっと信頼してやれ。あっちは、アンタを信じてんだからな」
べつに信じていないわけでも、頼りにしていないわけでもない。
むしろ、寄りかかりすぎて執着しているくらいで。
でも、たしかに、謙信様が私を信じて任せてくださっているのだとしたら、心配しすぎるのは失礼にあたる。
度を越した過剰な心配は、信じていないと言っているも同然だ。
「はぁ……少し、気をつけることにします」
「ああ、そうしてやれ」
目を穏やかに細めた政宗様に、口元をゆるめて微笑んで返す。
本当に、いい男になりましたね。
出会った頃は、まだまだ子供だと思っていたのに。
ヤンチャなところは変わりませんけれど。
「では、そろそろ離していただけますか?」
「あ?なに言ってんだ、お楽しみはこれからだろ」
「え?」
「俺がわざわざ、謙信とアンタの絆を深める為だけに酔っぱらったフリなんてすると思ってんのか?」
やっぱり、酔ったフリだったんですね。
じゃなくて。
「じゃあ、なんの為に…」
「この状況で、わからないと答えるほど鈍い女じゃねぇだろう」
「いえ、わからないというか、わかりたくないと言いますか」
力強い腕が私の腰をさらにぐっと近くへ引き寄せ、政宗様の体温が伝わってくる。