第35章 事故チューその後・弐(薬師視点・かすが)
朝。
目を開けたら、すぐ傍に。
クナイを片手に持った、かすが嬢がいました。
「……………」
「……………」
なんのホラー映画ですか?コレ。
心臓が止まるかと思いましたよ。
いやマジで。
「…………………か、す……」
「そこで切るなと、前にも言った筈だ」
首元でキラッと光が反射した。
ひ ぃ ぃ い い い っ っ !!!!
ごめんなさいっ、すみませんっ、申し訳ありませんでしたぁああ!!
でもでも、言い訳みたいですけどっ。
恐怖でこ、こここ声がうまく出せないんですよぉーーっっ。
「す、す、すみま、せん」
「まぁいい。それより、お前…」
「はいぃっ」
「あの真田幸村と、く、……………ったと、いうのは……か?」
「はい? あの、できればもう少し大きな声でお願いします」
「く………くっ、ちづけっ……口づけし合ったというのは本当か!?」
ああ、やっぱり。
何か変な誤解をしてらっしゃるようです。
おまけに声が裏返ってますよ?かすが嬢。
頬はうっすら赤く色づいているし、珍しい。
こんな状況でも「可愛いなぁ…」なんて思う私の思考は、どこまでも煩悩に忠実なようです。
しかし、そんなに動揺するような内容ですかね?
「いえ、あの……あれは事故と言いますか」
「じ、こ?」
「ええ。ただ顔がぶつかっただけです」
「そ、それならっ……あいつと恋仲だという噂は…?」
あー、なんか、昨日から爆弾発言が多いですねぇ…。
佐助さんといい、かすが嬢といい。
私の寿命をこれ以上、縮めないでいただきたい。
「そんな話になっていること自体、今はじめて聞きましたよ」
「じゃあ、嘘なんだな!!」
「はい。恋仲だなんて真っ赤な嘘偽り、噂話の盛りすぎた尾びれ背びれ胸びれにも程があります」
私と幸村さんの関係を表すなら。
茶飲み友だち。
研究者と被験者。
遊ぶ人と遊ばれる人。
こんな感じですかね。
「そうか…」
そう言って、小さく息を吐き出したかすが嬢が。
ほっと安堵したように、一瞬だけ笑みを浮かべたように感じたから。
思わず、瞬きをするのも忘れて見入ってしまった。
「っ……なんだ、何こっちを見ている!」
気づかれて、ギロッと睨まれました。