第32章 IF遙か3~復活~戯言編5(薬師視点・人識・伊織)
さすがに二人分の体重をこれでもかと押しつけられては、耐えきれるわけもなく。
あと数分も経たないうちに、重力に従って体が潰されてしまうのではないかと思うくらいには苦しいです。
「…す、すみません、が…ちょっと、退いて、いただけないで、しょうか…?」
「人識くん、離れてください。夢姫さんが死にそうです」
「伊織ちゃんが退けばいいだろ。俺一人の体重がかかったところで夢姫は潰れたりしねぇよ、実証済みだ」
「いえ、できれば、お二人とも…」
「実証済みということは、物理的に体の上に乗ったことがあるということですよね。夢姫さん、わたしのおねえちゃんになるんですか?」
「偶然、偶々、乗り上げただけだ。故意でも必然でもなければ、おにいちゃんとおねえちゃんにもならねぇ」
きっぱり否定してくれた人識くんには、ちょっぴり悲しくもあるけれど。
乗り上げたって何ですか、自動車事故じゃないんですからその言い方はどうかと思いますよ?これでも一応年頃の女性なんですよ?
そして伊織ちゃん、まず私は零崎ではありえませんから、あなたのおねえちゃんとやらには成りようがないです。
それよりなにより、私……そろそろ本気で限界なんですが……
「人、識く、ん…伊織、ちゃ…」
「えー、一緒に暮らしておきながら、なにをモタモタしているんですか~。人識くんてば、とんだチキン野郎ですね。一見草食っぽい肉食面した草食男子なんて、絶滅危惧する未来しかありませんよぅ」
「誰がチキン野郎だ、なにが一見草食っぽい肉食面した草食男子だ。勝手にややこしいもんに人を分類して納得するんじゃねぇよ、そこまで危惧されるほど男として終わっちゃいないっつの」
二人とも、そんなことを言ったらそれぞれが好みの皆さんから避難轟轟ですよ…?
って、あ、もう駄目だ。
頭がぼんやりしてきました……視界が、かすんで…………
そのまま意識はフェードアウト。暗転、暗暗。