第32章 IF遙か3~復活~戯言編5(薬師視点・人識・伊織)
……まぁ、それでもこれでも。
困っていたら助けてくれたり基本的には優しい素振りも見せてくれるので、一緒に過ごしていて居心地はそう悪くないというか。
けっこうなかなか、楽しかったりするんですよね…………危険要素を除けば。
「ところで、今後どうするかの話の前にひとまず食事しませんか?腹が減ってはなんとやら~です」
床に落ちてしまった、私の手には重たく感じるナイフを拾って、人識くんの方へ差し出しながら提案してみる。
これまた何でもないことのように当たり前のようにナイフを受け取った人識くんが、たしかにと頷いた。
伊織ちゃんも眉をハの字に下げて、ぺったんこなお腹を両方の腕で抱えて見せたので。
「よし、今日は贅沢に出前でも取って英気を養いましょう!」
「この先、役立つ才能に優れていれば養う必要もあるだろうが……残念なことに俺と伊織ちゃんにあるとするなら、それぞれ凶器と殺人衝動に関する本能だけだぜ」
「否定はしませんけど、人識くんに残念とか言われたくないですぅ」
「どういう意味だコラ」
それなりに仲良しさんに見える二人の様子を眺めながら、懐に隠していた封筒を取り出す。
ズイッと喧嘩のようなじゃれ合いを割るように見せつけると、にんまり口角を上げて。
「実は……臨時収入があったんです。私の奢りですから、お寿司でも鰻でもお肉でも高級フルーツでも何でも好きに食べていいですよ」
くっふっふ。私だってやるときはやるんです。
いつまでも、たまにしか役に立たないタダ飯食らいの穀潰しな拾い者ではありませんよ。
珍しくドヤ顔で自慢できない胸を張っていると、きょとんと見ていた二人の目が光り輝きはじめ。
「夢姫!!」
「夢姫さん!!」
「うわっ、だぁ!!」
勢いよく二人同時に飛びかかられて、避けられる筈もない体は綺麗に後ろへと倒れた。
…い、痛い……後頭部と背中、思いきり打った……そして重い。
当の押し倒してきた二人は、そんなことまるで構いもせずにぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
それはとても嬉しいですし、いつもならこちらからお願いしたいくらいなのですが。
あの、とにかく重いんです。