第32章 IF遙か3~復活~戯言編5(薬師視点・人識・伊織)
「……本当にすみません、伊織さん。私がその場にいれば、もしかしたらその手をなんとかすることができたかもしれないのに」
「そそんなお気になさらずっ、頭を上げてください!」
「まったくもってその通りだぜ。いくらおねーさんが運動神経なさすぎて移動するときお荷物になるからって、留守番なんかさせずに連れて行って使うだけ使って不要になってから放置すればよかった」
「なんて非道なことを言うんですか、人識くん!本当に、気にしないでくださいね?夢姫さん。あと、わたしのことは伊織ちゃんでいいですよぅ」
ああ、天使ですか……実際は実体は実態は、そんなお綺麗なものでないと知ってはいますけど。
手首から先を失って余った服の袖をぷらぷら揺らしている伊織さん、いえ、伊織ちゃんがかわいいです。
「なにか要望がありましたら、気軽に気楽に言ってくださいね。できる限りお手伝いさせていただきます」
「ありがとうございます、助かりますよ〜。なにしろこんな状態ははじめてで、不便というか不便というか不便なんですよね」
にこにこ笑いながら不便の三連発は、実に心にグサグサと刺さります。
「もう本当に、なんでも言ってくださいっ」
「伊織ちゃん、わざと言ってるだろ。あんたも俺のこと言えないじゃねぇかよ」
「人識くんが拗らせている永遠の思春期と一緒にしないでください。わたしのは優しいおねえさんを慕う純粋な愛ですよぅ、愛」
「っ…伊、織ちゃ……最高、です…ぷふ…っと!」
伊織ちゃんの素晴らしい例えに思わず笑いがもれた口と震える腹筋を手で押さえれば、問答無用とばかりに容赦のない速さで飛んできたナイフに慌てて防御の固有技を発動させて回避をはかる。
言ったの私じゃないんですけど!?
どうしてちょっと笑っただけで、殺傷能力の高いナイフと鋭い殺気を投げつけられないといけないんですか。
「伊織ちゃんには投げるナイフすら惜しいけど、おねーさんに投げたら防がれても多少気分が晴れるからな」
どこの暴君発言?
私への対応がどんどん遠慮ない酷いものになってきていませんかね。