第31章 IF遙か3~復活~戯言編4(薬師視点・人識・双識(仮))
天気のよい平凡で平穏で、幸せ感じるおやつ前のひととき。
それは、いきなりやって来て。
わたしの目の前で、人識くんと一見和やかそうな会話をはじめました。
「人識くんが珍しく拾い物をしたと聞いて見に来てみれば、これはなかなか素敵なお嬢さんじゃないか」
「だろ?鳴き声がうるさいから仕方なく連れてきたんだけど、怪我したときなんかは便利でいいぜ。たまには落とし者を拾ってみるもんだな」
「……あの、人をただの拾得物や捨て犬扱いするのやめてもらえませんかね」
鳴き声ってどういうことですか?人識くん。
たしかに泣きはしましたけれど。
あと拾い物とか落とし者とか、無機物か有機物かどちらなのかハッキリしていただきたい。
「いや、これはすまないね。人識くんは世間を知っているようで知らないと言うか、少しばかり一般とはズレている感覚の持ち主なんだけれどとってもいいこなんだよ」
「紳士面した変態には言われたくねぇな。これでも兄貴よりは、多少マシなつもりだぜ」
私からすれば五十歩百歩、似たり寄ったりの棚上げな言い分に聞こえます。
さすがにこの二人の前では、恐ろしくて口には出せませんけれど。
そんな思いを隠しつつ微笑んでいれば、いきなりの来訪者である背の高くてスラッとした……でもどこか異様に見える長髪眼鏡なスーツ姿の男性が、異常ににこやかな笑顔で私の両手をぎゅっと握ってきた。
「妹に為りえないのは残念だが、優秀なお医者さんと仲良くしていて悪いことはないからね」
「兄貴がお医者さんとか言うと、ごっこ遊びの変態的な意味にしか聞こえねぇのが凄いよな」
「あは、はは……」
顔の距離が近いですねぇ、とか思っていたら割り込むように入ってきた人識くんの手が、男性の顔面を押しのけるように突き出され。
さらにはどこからか取り出したナイフが、相手の手首を深く切りつける勢いで振りかざされ……って危なあ!!
そのままいったら私の手まで巻き込まれそうだと瞬時に判断し、慌てて防御壁を展開した。
結果、ナイフは誰の体も傷つけることなく防御壁にわずかに掠っただけで跳ね返り。
人識くんは小さく舌打ちしてからナイフをクルリと回すと、流れるような動きで素早く後ろへ避けた男性……おそらく零崎双識さんを面白くなさそうな顔で眺める。