第30章 IF遙か3~復活~戯言編3(薬師視点・人識)
それから器が空になるまで、人識くんが人の牛丼をスプーンで奪って食べつつ私の口にカレーを突っ込むという行為が繰り返されました。
いや、もう、カレー自分で食べましょうよ!牛丼の気分じゃないって言ったの誰ですか!?
「ごちそうさまでした」
「うまかったな、牛丼」
「次は自分で頼んだもの食べましょうね、人識くん」
「なかなか面白い遊びだった」
まさかのお遊びでした。
「食事に不真面目なのはどうかと思いますよ」
「隣の芝生は青く見えるって言うだろ?遊びはついでだっつの」
「……そもそも遊ばないで欲しいのですが」
「まぁ、そうつれないこと言うなよ。今日は俺の、お帰りなさい祝いなんだろ?」
そう言って人識くんは先に店を出ると、入ったときと同じように扉を押さえて待っていてくれる。
いつからそんな紳士になったんですか?イケメンですか。
ただでさえ顔面偏差値高いんですからやめてください、うっかり鼓動が乱れて早死にしそうです。
「人識くん」
「ん?」
「ありがとうございますさびしかったですおかえりなさい」
「待て待て、そんな早口言葉並のスピードで句読点なしに言われたらさすがの人識くんでもわかんねぇだろ」
「わからなくていいんですよ」
わざとですからね。
いい大人が年下の男の子に、一人で過ごしていたから寂しかっただなんて……素面じゃ絶対まともに言えません。
恥ずかしすぎるでしょう。
「今度はちゃんと聞き取ってやるから、もう一回」
「残念ながら本日の営業は終了いたしました」
「明日ならいいのか?」
「明日は明日の風が吹きますので、未定にございます」
「なんだよ、つっまんねぇーの」
おや、ちょっとばかり意地悪が過ぎましたかね?ここら辺で少し機嫌を戻しておかないと面倒くさ……ごほっん。
そんなことを思って拗ねたように前を歩く人識くんを見ていたら、何故か急にトトトッと後ろ向きのまま軽快に戻ってきて私の横に並び。
「また今度、あらためて『 寂しかった 』って言ってくれよな」
口の端をニィッと歪めて放った言葉に、体内の血が逆流するんじゃないかと思うほど一気に頭へ熱が上がった。
し っ か り 聞 こ え て る じ ゃ な い か ! !