第30章 IF遙か3~復活~戯言編3(薬師視点・人識)
「アイスはともかく、他のお店に行ってもよかったんですよ?」
「だってアンタは牛丼が食べたかったんだろ?」
「…………」
「…………」
もしかして、私に気を使ってくれたんでしょうか?え、本当に?あの人識くんが?
思わず無言でまじまじと見つめていれば、テーブルに顎をくっつけたままの人識くんも上目づかいでこちらを見てくる。
見つめ合う年若い男女……その間にあるのは一体なんなのか、甘い雰囲気でないことだけは確か。
「帰りにアイスでも買いましょうか」
「サーティーワンのトリプルな」
「残念、帰り道にはコンビニしかありません」
「んじゃ、ハーゲンダッツ箱買いで」
「食後にサーティーワンまで散歩したくなってきました」
「かははっ、随分タイミングいいじゃねーか」
わかって言ってらっしゃいますよね?そんな嬉しそうな顔してもかわいくなんか……かわい…………かわ、いいなぁもぉおお!!
だって箱買いって人識くんの場合、一箱って意味じゃないでしょう!箱ごと何個か買うって意味なんですよ勘弁してください。
ただでさえハーゲンダッツは高いのに、それを一日で消費されたらお金がいくらあっても足りません。
たしか、サーティーワンのダブルで一個サービス!な、ダブルでトリプルキャンペーンをやっていた筈ハイ決定。
なんてお財布に優しいキャンペーンなのでしょう、昔はそんなにたくさん食べませんよーなんて思ったものですが。
今はただただ、ありがたい限り。
「私もトリプルにしますから、どうせなら全部違う味を選んで楽しみましょうか」
「……いいのか?」
「たまにはいいんですよ、たまには。人識くんお帰りなさいお祝いです」
「なんだそりゃ」
わたしの言葉に片眉だけを器用に持ち上げた人識くんは、次いでその気まぐれな赤い瞳を細め。
「でも、そういう祝いなら悪くない」
まるで無垢な子供のように、ふにゃりと笑って見せた。
控えめに言って天使。いえ、むしろ人の心をかき乱し振り回して壊す悪魔ですかね。
あ、殺人鬼でした。