第30章 IF遙か3~復活~戯言編3(薬師視点・人識)
人識くんが止めてくれなかったら今頃……ガラス破りはさすがに無理ですけれど、顔面から派手にぶつかり穴を掘ってしばらく隠れたくなるほど恥ずかしい思いをするところでした。
「そっちかよ。まずは怪我の心配をしろよ」
「恥ずかしさの前には痛みすら鈍くなるものなのですよー、これ乙女の常識です」
「乙女って何歳まで乙女なんだ?」
「もちろん死ぬまでです」
「乙女心に年齢制限はナシって?」
「年齢どころか性別すら問題ありません、そのうち種族超えもする予定です」
「超越しすぎだろ」
「夢はでっかく持ちましょう、人識くん」
「夢姫の夢は偏りすぎだと俺は思うぜ」
お得意の笑いすら浮かべずに、呆れを含んだ眼差しを向けられました。
ええー、クールですか。路線変更ですか。もっとノッてください、寂しいじゃないですか私が。
でも先に店内へ入ったかと思えば、扉を押さえて私が通るまでしっかり待っていてくれる人識くん。
無意識にフェミニストな優しさとか不意打ちな女性扱いだとか、オネーサンどっきどきなんですけど。
気まぐれに唐突にデレをぶち込んでくるものだから、いつも抱きつきたくなる衝動を抑えるのが大変なんですよ?
いえまぁ、自覚ありありで計画的にそのような行動されても困りますけどね。
普段はあまり使わない顔面筋に本気を出してもらい、ニヤけそうになる口元を必死で取り繕いながら席へつく。
「なんにすっかなー」
「私は『 並盛つゆだく卵のせ 』でお願いします」
「じゃあ俺は『 カレー 』で」
「おや、牛丼じゃないんですね」
「今日は気分じゃない」
なら、なんで牛丼が売りのチェーン店に来たんですか?と激しくツッコみたいのですが。
どこか不満そうに、テーブルの上でぐでーっと上半身を倒して伸びる様子を眺めつつ、喉の渇きを癒すべくお水を頂く。
ああ、冷たいお水がおいしい……さて、注文の品がくるまで人識くんの暇な時間をどう潰しましょうかねぇ。
「牛丼の気分でなければ、何の気分だったんですか?」
「んー……あー…………アイス?」
「それはデザートです」
ご飯じゃありません。
主食にしようものなら人識くんの健康の為、全力防御で阻止させていただきます。