【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第12章 ファインダーの向こう側〜気付きの物語〜(及川 徹)
普段来ることもない校舎の隅に新聞部の部室があった。
さらにその隣の資料室…今まで存在も知らなかったこの部屋が皐月さんのご指定の場所だった。
「失礼しまーす。」
皐月さん以外にも誰か居るかも…と一応声を掛けてドアを開けると、少し埃っぽい、インクの匂いの充満した部屋で皐月さんが真剣にパソコンに向き合っていた。
他に人は居なさそうだ。
「…本当に来たんですね。」
皐月さんがパソコンからチラッとだけこちらに寄越したのを確認してから部屋の中に入る。
相変わらず…先輩に対して失礼な態度だ。
「写真ってパソコンで管理するんだね。てっきり暗い部屋で液体みたいなのにつけて現像するんだと思ってた。」
皐月さんの後ろ側に回って、パソコンを覗き込むと1枚の木の写真が映されていて…何の作業をしているのかはサッパリわからない。
「現像液で印刷するのも中々味があっていいですよね。でも、今はデジタルが主流です。カメラもフィルムじゃなくてメモリーカードがセットされてますし…色味の調整なんかも簡単に出来るので。」
相変わらずの物言いだけど…写真の事を話していると少し口数が多い気がする。
本当に好きなんだなぁ。
「これ…今日撮ってた写真もフォルダにまとめたので…好きに見て下さい。」
そう言って、パソコンを軽くこちらに押しやると、席を立って部屋を出て行く皐月さん。
えっ…出て行かなくてもいいのに…。
って、別に俺だって皐月さんと一緒に居たかったわけじゃないけどさ。
別にいいもんねぇ。と鼻歌交じりに勧められたパソコンに手を伸ばす。
画面の中にはたくさんの写真が納められていて、ランダムに選んで大きく表示する。
眩しいくらいに光る空。
どこか寂しげな下駄箱。
ほっこりするような道端の小さな花。
クリックひとつでコロコロと俺の気分を変える写真に、時間を忘れるようにのめり込んでいた。
文化祭で展示されていたのと同じ教室の写真で手を止める。
無人の教室は煩雑としていて、先程までの賑やかな雰囲気からポツンと取り残されたような、そんな寂しさを漂わせた。
「やっぱり…皐月さんの写真は好きなんだよなぁ。」
そう呟くと同時にパソコンの隣にコトンっと缶コーヒーが置かれた。