【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第12章 ファインダーの向こう側〜気付きの物語〜(及川 徹)
「コレも見ていい?」
カーソルをファイルの上に動かせば、皐月さんの態度が明らかに変わった。
「ダメです!それはダメ!!」
そこまで嫌がるって事は…失敗作??
ファン心理としてはその失敗作も見てみたい。
立ち上がって、俺からマウスを奪おうとする皐月さん。
まぁ、力勝負で俺に勝てるはずもない。
マウスを2クリックすると、目の前にファイルが開かれて何十枚もの写真が展開される。
えっ…。
そこに映った予想外の写真達に思わず言葉が無くなる。
「本当に…ダメです!バレたら引かれる!嫌われる!忘れて下さい。殴ったら忘れますか?殴っていいですか?」
そして、俺以上にテンパっちゃってる皐月さん。
「皐月さんって…岩ちゃんが好きなの…?」
パソコンに映し出された何十枚もの写真には、俺の相棒が写っていて…皐月さんの態度を見ただけで好きだと丸わかり。
それ以前に、目の前に映された写真達を見ただけで丸わかり。
なんで岩ちゃんだけ…こんなにカッコよく撮ってるのさ…。
先程の自分の写真との違いに、軽い怒りを覚える。
これって…嫉妬?
「お…お願いです!及川先輩、殴らせて下さい。」
殴られたくらいじゃ、忘れないよ。
ってか、既に殴られたくらいの衝撃なんだけど…。
俺…何でこんなに傷付いてるの?
「落ち着きなよ。誰にも言わないから…。とりあえず、その握り拳を下ろそうか。」
俺の言葉に、ゆっくりと握り拳を下ろした皐月さんの顔は真っ赤で、穴があったら本当に入ってしまいそうだ。
そっか…岩ちゃんが好きなのか…。
またズキリと心臓が音を立てる。
そっか…俺、皐月さんが好きなのか。
今気付いたばかりの感情を、今までで一番力強く否定する。
好きとか…そんなんじゃない。
「及川先輩…この事は、岩泉先輩には…。」
好きじゃないから、大丈夫。
別に傷付いてなんていない。
「大丈夫。言ったりしないから。それに、バレたのが俺でラッキーだよ。俺なら岩ちゃんと仲良しだし、何たって相棒だし…協力してあげるよ。」
自分の気持ちに気付いた途端に失恋するなんて…こんな苦い恋の物語を自分が紡ぐとは思ってもみなかった。
こんな事なら終わってしまえと心底願ってみるけど、物語はまだ始まったばかりだった。
end.