【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第12章 ファインダーの向こう側〜気付きの物語〜(及川 徹)
「及川先輩が私の写真のファンだって…本当だったんですね。」
同時に後方から掛けられた声にビクっとする。
「皐月さん!?急に後ろから声掛けないでって…昼に自分で言ってたよね!って…これ、コーヒー?」
こんな近くに来るまで気付かないとか、俺どんだけ集中して写真見てたんだよ…。
「写真を見ていただくお礼です。」
しかも、出て行ったとばっかり思ってたのに、これ買いに行ってたとか…何、嬉しいと思っちゃってるんだよ。
「普通逆だよね?見せてもらった俺がお礼するべきだと思うんだけど。」
「じゃあ…ファンサービス?」
うーんと首を傾げた後の皐月さんの笑顔。
俺に皐月さんくらいの写真の腕があれば、すごく綺麗に残してあげれるのに…。
って、別に可愛いとか思ってない…ちょっとしか、思ってないけど!
「じゃあ、ファン1号としてありがたく頂戴するよ。ところで、このファイルには風景の写真しか無かったけど…人の写真は?」
貰ったコーヒーのプルトップを開けながら質問すると、俺の横の椅子に座りながら皐月さんが苦い顔をする。
「人の写真は苦手なので…ファイル分けてます。」
「見せてよ。この前の取材で俺を撮ったやつとか。」
「…及川先輩って、やっぱりナルシストなんですね…。」
ちょ…完全に誤解なんだけど。
俺が慌てて否定するのも聞かずに、皐月さんが呆れ顔で別のファイルを開いて行く。
「どうぞ、ご堪能下さい…。あっ、気にくわない写りがあっても苦情はご遠慮下さい。及川先輩の自尊心を満たせる写真が撮れてればいいのですが…。」
「だから…そのナルシストの設定やめてよ。」
全く聞く耳持たない皐月さんのことは諦めて、パソコンの画面に視線を戻すと、この前練習を取材に来てくれた時の写真が映っている。
確かに…上手いんだろうけど、風景写真ほど心を揺すられる感覚はない。
でも…俺、皐月さんの目にこんな風に映っているのか。
目の前に映し出される自分の写真に思わず嬉しくなる。
これが自尊心を満たされるって事…?
ってか、俺もしかして皐月さんの事…?
いやいや。自分の考えを頭の中で否定する。
丁度、その時だった。
ん?コレは…?
画面の一番隅にひっそり存在するファイルに気付いたのは。