【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第9章 ファインダーの向こう側〜出会いの物語〜 (及川 徹)
人気のない部屋の壁に飾られた写真達。
俺自身もこの部屋に入るまで、文化祭で写真の展示をしているなんて知りもしなかった。
写真なんて大した興味もないくせに、その一角にある写真に釘付けになった。
なんて事のない風景。
空とか、教室とか、道とか、街並みとか…見知った風景なのに、この写真達に残されたそれには何処か懐かしく胸を打つ感覚があって…。
思わず泣きそうになった。
こんな事…初めてだ。
普段の何気ない風景を、こんな風に見ている人がいる。
それだけの事が何故か、酷く衝撃的に胸をついたんだ。
「あれ…及川先輩…?」
あっ、やべ…見つかっちゃった。
先程までの女の子達が追ってきたのだと慌てて振り返ると、そこには皐月さんが1人で立っていた。
「その写真…。」
皐月さんの呟きに促されて、壁に目を向ける。
『2年2組 皐月 和奏』
「この写真…君が撮ったの?…凄くいい写真だね。」
まさか皐月さんの撮った写真だと思ってなかったから、少し驚いたけど…心からの言葉が出た。
「ありがとうございます。って…及川先輩から言われると真実味に欠けますね。」
少し困った様に笑う皐月さん。
「えっ…どういう意味!?俺、本当にいいと思った物しかいいって言わないよ?特にこの教室を撮った写真とか!俺にはこんな風に見えたことないから…。」
「あ…ありがとうございます。何だか失礼は事言ったみたいで…すいません。及川先輩ってチャラいって有名なので…リップサービスかと…。」
「まだ数回しか話した事ないけど…皐月さんって、岩ちゃん並みに発言が酷い時あるよね。」
「岩ちゃん…あっ、岩泉先輩!それは光栄です。ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げる皐月さんに頭が痛くなるのを感じる。
「俺と岩ちゃんに対する偏見が凄いね…。」
「え…偏見っていうか…一般論?あっ!私、忘れた備品を取りに来ただけで、早く戻って文化祭の様子を写真に収めなくちゃいけないんでした。及川先輩、失礼します。」
何か黒い袋の様な物を掴むと、こちらの様子も確認する事なくバタバタと去っていった。
何なんだよ…本当。
失礼な後輩を見送りながら、再度壁の写真に目を向ける。
失礼な奴だけど…、この写真達だけは本当に好きだなぁ。