【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第8章 2年の空白の終わり (黒尾 鉄朗)
ピッピーッと勝利を知らせる試合終了のホイッスルが鳴る。
相手チームと審判に礼をしてコートから出る。
「なぁ、夜久君。ウォームダウンと撤収…任せてもいいか?」
「は?どこ行く気だよ!」
夜久君の顔には主将のくせに許せねぇと書いてある。
俺だって主将がどういう立場かくらいわかってる。
でも…。
「今行かねぇと、また勝利の女神を掴み損ねるんだよ!」
和奏はいつも試合が終わると逃げるように会場を後にするんだ。
1年間…ずっと試合を観に来ているのに、一度も話せていない原因はそれだ。
キョトンとする夜久君に代わって、研磨が呆れ顔で答える。
「イタイ事言ってないで、さっさと追い掛ければ?皐月さん…もう会場出て行ったよ。」
バッと振り返れば、研磨の言葉通り和奏の姿はない。
居ても立っても居られずに、走り出す。
別に今じゃなくても、次の試合でも…観に来てくれるかもしれない。
でも、今連絡しなくても、後で連絡すりゃ大丈夫と高を括って和奏を失った。
そして、かっこ悪いと思われたくなくて、そんな彼女を追い掛ける事さえしなかった。…あの頃の俺とは違うんだよ。
「和奏!!」
会場を出てすぐの所で見えた彼女の後ろ姿に向かって叫べば、和奏は驚いたように歩みを止めた。
「くろ…お。」
う…久しぶりだったし…苗字で呼んだ方が良かったか…。
付け足すようにハッキリ発音された「お」に、この後に及んでそんな下らない事が気になってしまう。
「観に来てんなら、声掛けろよ。」
元気にしてたか?とか、会わない間の彼女の事について、聞きたいことは山程あるのに、何も出てこない。
ただ、少し離れた観客席に居た和奏が、今は目の前に居る。
それだけの事なのに信じられないくらい胸が高鳴っているのがわかる。
ガキかよ、俺…。
「あ…うん。たまたま観に来てて…。」
そんなバレバレの嘘さえ、懐かしく感じる。
和奏は俺を観に来てくれていたんだ。
俺の勝手な願望を和奏の言葉が現実に変えてくれる。
ヤバい。嬉しくてニヤけそうになる。