【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第8章 2年の空白の終わり (黒尾 鉄朗)
side 黒尾 鉄朗
「お前と皐月、別れたんだってな!女子達が皐月が新しい彼氏と歩いてたって騒いでたぞ。黒尾はまだ新しい彼女いねぇの?なら、今度合コン誘ってやる。」
高1の秋頃に、中学時代の連れから来た連絡で、俺は和奏を失ったと初めて実感した。
失ったと気付いて、初めて事の重大さがわかった。
そして、見た事もない和奏の新しい彼氏に対して、嫉妬と言う言葉以外では表現出来ない感情を抱いたんだ。
まぁ、だからと言ってどうなると言う事もなく、どうしようもない気持ちは、適当に女の子達とも遊んで紛らわした。
でも、遊べば遊ぶほど気付いてしまう。
和奏がどれだけ特別だったか。
女の子と遊ぶのがくだらなく感じて、高2に上がる頃にはバレーボール一筋の堅実な黒尾君になっていましたとさ。
和奏が試合を観に来ているのに気付いたのは高2の夏。
もうダメだろってくらい追い込まれた試合で、ふと見上げた視線の先に和奏がいた。
中学の頃より伸びた髪の毛。
どこか顔立ちも大人っぽくなった気がする。
何で和奏が居るんだよ…。
思い当たる理由がなくて、混乱したまま和奏から目を逸らした。
何で居るのかなんて、知らねぇけど…和奏にかっこ悪いとこ見せるわけにいかねぇんだよ。
試合はそこからしぶとい粘りで、なんとか勝利した。
それから、幾度となく行われている試合で、追い込まれる度に観客席に和奏の姿を探す。
いつも隅っこの方で…でも、必ずそこに居る彼女の姿を見るのが、俺の勝利への願掛けになった。
なんで、毎回居るんだよ。
そんな事を何度も考えた。
もしかして、和奏はまだ俺のこと…なんて、都合のいい考えをした事もあるけど、なら和奏から連絡があってもいいだろう。
俺はあの頃から電話番号もメールアドレスも変えていない。
もし、俺を観に来ているなら「試合見たよ」の一言くらい…送ってくるだろう。
でも、そのうち和奏が何を考えているのかなんて、どうでもいいって思い始めた。
結局は…俺が和奏に試合を観てて欲しいんだって、自分の気持ちに気付いてしまったから。