【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第8章 2年の空白の終わり (黒尾 鉄朗)
side 皐月 和奏
「へぇ。1年間も…毎回たまたま試合観に来てくれるなんて…凄い偶然だな。」
目の前のクロがニヤッと口元を釣り上げた。
意地悪する時のこの笑い方…相変わらずだ。
離れたコートじゃなくて、目の前にクロが居る。
その事実だけで心臓が破裂しそうだ。
「な…気付いてたなら、そっちこそ声掛けてよ。」
「いつも、試合終わるとさっさと帰っちまう奴がよく言うよ。それにしても、相変わらずだな。」
何が…とは言わない。
私もクロに同じ事を感じていた。
背は伸びて、顔付きも鋭くなって…でもクロの纏う雰囲気はあの頃のままで…。
「クロの方こそ…相変わらずでしょ。」
私の言葉にクロがふっと笑った。
あぁ…やっぱりクロが好きだ。
「ところで…なんで音駒の試合観に来てんの?」
流石に…この状況で素直に好きだとは言えない…。
「あ〜っと…。」
「悪りぃ。セコい言い方した。」
言葉を濁していると、クロが視線を外して、頭をポリポリと掻きながら言う。
きっと…私の気持ちはもうバレているのだろう。
何も言えずに、視線を外したクロを見ていると、突然私の方に戻って来た視線を真正面に受けて、言葉が出なくなる。
「俺の…思い上がりじゃなければ…、和奏が試合を観に来てくれてる理由が俺なら…もっと近くで応援してくれないか?」
全く予想していなかった言葉。
「それって…。」
「和奏が好きだから、俺の隣で応援して欲しい。」
涙が込み上げて言葉にならない。
もしかしたら、私の夢かもしれない。
首を何度も縦に振って頷けば、クロの体温に身体を包まれる。
「和奏、好きだ。」
ずっと…聞きたかった言葉だ。
「私も…クロが好き。」
恥ずかしさに顔をクロの胸に押し付けながら答えると、背中に回った腕に力が入る。
「俺…和奏から好きって言われたの初めてだ。」
「そんな事ないでしょ?私はクロから好きって言われるの初めてだけど…。」
「「……。」」
ふっと笑い声が重なる。
きっと恥ずかしくてお互いに言えなかったんだ。
「まぁ、色々ガキだったって事だな。お互い。」
お互い少しだけ大人になった。
あの時は上手く紡げなかった気持ちを、また2人で紡いで行こう。
今なら大丈夫。そんな気がしてる。
end.