第9章 白鳥、舞い戻る
男バレの体育館にはあっという間に着いてしまった。いつもは賑やかな声がする体育館からはターンターンという単一的なボールが弾む音しかしない。全国大会レギュラー組が帰ってきたばかりということもあって、今日は軽い練習だけだと牛島も言っていた。
入口に張られたグリーンのネット越しに中を確認する。予想はしていたけど目的の人物を見付けた瞬間、体中の血が沸騰するのを感じた。ずっとずっと会いたかった背中。ボールをバウンドさせてサーブを打とうとしているようだった。
「……牛島」
ボソっと呟いただけだったけど牛島には聞こえたようだった。すぐさま牛島の顔がこちらを向き、私の姿を確認する。
「…緑川。シューズは持ってきているか?少しだけトスを上げて欲しい」
思わぬ申し出に一瞬躊躇ってしまったけど「うん」とだけ返事をしてすぐに靴を履き替えた。
「……この間の合同試合以来だな」
「…そうだね」
ボール出しが居ないから勢いのあるトスは上げられないんだけど、これは中等部の頃から牛島とよくやっていた練習だった。いつも嬉しそうに打ってくれていたのを思い出して、思わず泣きそうになる。
バンッッッ―――――
私の出すヘボいトスでも、ネットの向こう側に落ちたボールの勢いはすごくて。やっぱり中等部の頃とは違うことを思い知らされた。
「……東京行って、鍛えられてきたね」
「…ああ」
残念だったね、とか。惜しかったね、とか。
そんな言葉は今までいっぱい掛けてきたからもう牛島には言いたくなかった。
「………好きだ」
タン、タンと。ボールをバウンドさせていた牛島がボールをキュッと握った瞬間にフと私の目を見ながらその言葉を口にした。
「え………?」
「お前の上げるトスが好きだ」
…トスかよ。全身全霊で突っ込みたかったけど牛島はサーブの体制に入り、バンッとジャンプサーブを一本打った。滴る汗を手で拭い、また私の目をジッと見つめる。私が不審気な目を向けると牛島はフッと笑った。