第8章 牛若、東京にて。
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白鳥沢学園男子バレーボール部は全国大会2回戦で敗退した。ここ10年ほどは全国大会出場にも関わらず優勝を逃し続けている。みんな流石に悔しそうで三年生達は声にもならず涙を流し続けていた。
キャプテンは「ちょっとトイレな」と言ったきり戻ってこない。きっと泣いている。自分たちの代で全国制覇を果たしたかったに違いないから。
スタンド席に移動して、落ち着くまで女子の試合を観戦することになった。監督もコーチも流石にすぐに帰るぞとは言えない。新幹線のチケットの手配もあるし…
「…牛島くん?気になる選手でもいた?」
「……ああ。あの10番、緑川にプレーが似ていて」
牛島くんは少し赤くなった目元を擦りながら、真剣な眼差しで女子試合を見ていた。…確かに。スパイカーに合わせたトスを打ち、エースに尽くし、相手チームの動きをよく読む。緑川さんと近い動きだ。
「…だが違うものだな。こうして見ると緑川のレシーブは少しクセが強いフォームだ」
「そういうのってさ、緑川さんにアドバイスしたことあるの?」
「…いや、ないが」
「言ってあげたら?彼女、真剣に上手くなろうとしてる選手だからきっと喜ぶわよ」
「…考えたこともなかった」
この二人がすれ違っている原因はここにある気がした。牛島くん、彼女はあなたと違ってエースとは言われない。県内だけで見たって平凡な選手に分類されるのよ。ちょっとしたことを積み重ねて距離を縮めないと…なーんてそこまで言ってあげるつもりはないけど。
「…だが、緑川はトスが上手いんだ。高くて俺の打ちやすいトス。あんなセッターがチームにいたら、と思う」
「あと2年もあるんだし、そんな選手が入ってくるかもしれないわよ」
「…そうだな」
エースに尽くし、自分の個性は出さない。安全なプレーを着実に続けられる堅実なセッター…。それが白鳥沢セッターのコンセプトだ。
「あ、私そろそろキャプテン呼んでくるわね」
「ああ。男子トイレは階段の左だ」
意外に来年あたりにそんなセッター入ってきたりして。なんて思いながら私はスタンド席を後にした。