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まだまだ青い白鳥たち

第8章 牛若、東京にて。


「…俺は、緑川に酷いことをしてしまった」
「……何したの?」
「………」


牛島くんは俯いたままで答えようとしない。大体の予想は付いてるけど、はっきりさせて練習に戻ってもらわないと困る。


「牛島くん。酷いことしたなら謝らないと。何したの?」
「……キスして、俺のものにしたいと言った。緑川は困っていた。天童と付き合っているアイツを困らせてしまった」


思わず大きく溜め息を吐いた。これがあの牛島若利だろうか?中学から全国大会に出場し、堂々たるプレーをしてきた白鳥沢学園期待のエースのこんな姿を見たくて、私はここに来たわけじゃない。
あなたと全国を獲りたいから―――――。


「…牛島くん。顔あげてくれる?」
「ん………!!!!???」


私は牛島くんの唇にほんの少しだけ自分の唇を重ねた。牛島くんは顔をあげたまま固まって目を見開いている。


「高岡っ…!何を」
「目ぇ覚めた?緑川さんの気持ち、わかった?」


牛島くんはフイと顔を背けて少しイジけてしまったように見えた。…可愛い。可愛いけど今はそんなこと思ってる場合じゃない。


「急に牛島くんにキスしといてさ、私がこの後マネの仕事も放り出してたらどう思う?」
「……心配だし、何をやっているんだと思ってしまう」
「でしょ?緑川さんも同じだと思うんだけど?」


牛島くんはハッとした表情になり、ようやく頭が冷静になってきたようだ。


「…私達が今できることって何かな?」
「……全国大会で勝つことだ」
「よし!じゃあ練習に戻ろっか」


スッと立ち上がった牛島くんはしっかりとした足取りで歩き始めた。私はマネージャーだ、大エースを支えるのも仕事。マネージャーの仕事は選手と恋愛することじゃない。


牛島くんの恋人になれたら…と思った時期もあった。でもそれよりも。チームの一員として存在したいという気持ちが強くなってしまった。全国を獲りたい。できれば女バレも一緒に。


男女ともに、バレー部一年生は支えなきゃいけない人が多すぎて、いつの間にか支えることが生き甲斐みたいになってしまった。頼られることがこんなにも嬉しい。テニスをやってた時には感じられなかった感情。


「…牛島くん、ファイトだよ!」
「……ああ」
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