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まだまだ青い白鳥たち

第6章 奪ってもいいか


なぜここに牛島が……?全く人が通らない薄暗くて不気味なこの場所は、おそらく天童くんが偶然見つけて今日使おうと思いついたのだろう。そんな場所に他の人間が来るなんて思いもしなくて。そして何よりも牛島に今の行為を見られていたのかと思うと死にたいような気持ちになる。


「………若利くん、何か用だった?」


天童くんがあからさまに嫌そうな表情と声で牛島に問い掛ける。私は牛島の表情を見るのが怖くて顔を下に向けた。あれほど疼いていた下半身がスーッと冷めていくのを感じる。


「………もうすぐ点呼の時間だ。一年のリーダーとして俺が探しにきただけだ」
「そう。若利くんさ、見てた?」


私は思わず肩をビクッとさせる。天童くん、これ以上何も言わないで……!恥ずかしいやら気まずいやらで唇を噛み締めた。


「……お前達が抱き合っているのは見えたが」


牛島から見て、私は天童くんの体に隠れる形だったからどんな行為をしていたかは見えなかったようだ。でも少しだけ――――。牛島の声がいつもより低く感じる。


「…へーえ。いいところで来てくれちゃったよね、若利くん」


天童くんは手にしていた小さな四角い袋をピラピラと振りながら牛島に軽口を叩く。それを見た私は思わず牛島の顔に視線を送ってしまったが、やはり見るべきではなかった。牛島はいつの通りの無表情な顔で天童くんを見つめていた。不快さも怒りも、何一つ感じ取ることはできない。


「………合宿の時にそういった物を使う行為は、褒められたものではないな」


あくまで、チームメイト。あくまで、いち意見。分かってる。牛島が天童くんに何かを言ってくれることなんて無いってこと。ヤキモチを妬くなんてことは無いってこと。


「はあーい。んじゃ部屋戻るよ。なつみちゃん一人で戻れる?一緒に戻るのもマズそうだしネ」
「う、うん。大丈夫」
「明日も練習頑張ろうネ」


それだけ言い残すとアッサリ天童くんと牛島は元来た道を戻っていく。少し時間をズラしたほうがいいだろうから、私は夜風にちょっとだけ当たっていく。火照った体にはちょうどいい涼しさだ。


「……なんか言ってよ」


ねえ、牛島。ちょっとぐらい動揺してくれたら良かったのに…なんて思う汚い私を許して。
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