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まだまだ青い白鳥たち

第4章 利害


「牛、島、あの」


突然の牛島の行動に頭が全く追い付かない。そもそも男子に抱き締められたことなんてない。天童くんとだって手さえ繋いでいないのに。牛島の腕は私の胸のすぐ上にあり、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。あまりの緊張に息をすることすら忘れる。


「…今、お前は幸せか?」
「…!」


牛島が何を言いたいのか悟ってしまった。牛島は何を思ってこの質問をしているのだろう。バレーが一番で、バレーが大好きで実力もある牛島。その牛島に勝手に引け目を感じた私。そんな私にはもう素直な気持ちを牛島に伝える術がない。


「し、あわせだよ」


涙が溢れ出すのを気合いで止めた。声は上擦ってしまったから牛島にはバレバレだと思うけど。


「…なら、」


牛島の表情は私からは一切見えない。しかし腕の力がグッと強くなり、気のせいか声が少し低くなったように感じた。


「お前の口から、天童が好きだと聞かせてくれないか」


…全部自分が招いた結果だ。だけどこんなことってあるんだろうか。なぜ本当に好きな人に、嘘を言わなきゃいけないんだろうか。



本当はね、牛島が好きだよ。



――そう言えばいいだけ。なのに私はその言葉を言えない。牛島の才能に嫉妬しすぎているから、牛島の隣で一緒に頑張っていくことは到底できない。


「…っ」
「緑川っ!!」


私は牛島の腕を振り払って逃げた。この間の男女合同試合の時のように無様な姿をまた牛島の前で晒す。あーあ、こんな私は牛島には絶対相応しくない。だからこれで良かったんだと思う。うんうん良かった。そう思ってるはずなのに――


「…っ泣くのやめろよ、私っ…!」


周りからは容認されてる牛島と私だったけど、『付き合うかも』っていう事実が近付いてくればくるほど怖かった。今までみたいに仲良く一緒にバレーしてたかっただけなのに。スーパースター牛島若利という存在は、どんどん一人で遠くに行ってしまう。私は彼の隣には似合わない。


牛島は何度も私に向き合ってくれたのに、私は逃げることを選んだ。ごめんね、牛島。ごめん。心の中で何度も謝る。何に対して謝ってるのかわかんないけど。


一心不乱に校舎の中を走っていると、気付いた時には一年生の教室がある階にいた。そしてタイミングがいいのか悪いのか、天童くんが教室に入っていくのを見つけてしまった。
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