第2章 気付き
放課後、私は部活に来たものの、筋トレと走り込み以外のメニューをやることができず、コーチに呼び出された。
「緑川は怪我が治るまでは基礎トレも出来ないもんなぁ。なんとかインハイの選抜期間までには治せよ。あとそれから鷲匠先生にはちゃんとご挨拶したか?一応こちらが被害者みたいな形になってるけど、お前本人からも報告に行ってこいな」
「はい、わかりました」
コーチの用件は怪我を早く治せよということと、男バレへのお使いだった。うう、鷲匠先生か…。数回しか見たことないけど怖そうな人だったよなぁ…。瀬見くんはいつも怒られてて慣れてるみたいなこと言ってたけどホントかなぁ。
気が遠くなりそうなお使いだったけど、元はと言えば自分が招いたことだから仕方がない。私は覚悟を決めて男バレの体育館入口で気合いを入れ直した。
「…すみません、鷲匠先生はいらっしゃいますか?」
「…なんだ緑川か」
「あ、牛島」
ガッチリした体形の上級生だなーと思いながら後ろから声を掛けたんだけど、なんと牛島だった。貫禄ありすぎでしょ。
「監督なら今日は居ないぞ。コーチと一緒に他校に行っているそうだ」
「そうなんだ。どうしよう」
「…昨日の怪我の一件か?」
「そうそう。鷲匠先生にも念のため報告しろって。うちのコーチがさ」
「そうか」
居ないのなら明日出直すか。そんなに大した怪我でもないし、報告は明日でも支障ないだろう。そう思って「じゃあまた明日来るわ」と引き返そうとした時、
「緑川」
牛島に呼び止められた。
「今日は自主練もしないだろう?一緒に帰らないか?」
「帰り…?うん、いいけど」
「今日は俺も基礎メニューだけで早めに上がる予定だ。終わり次第そちらの体育館に行く」
「うん、わかった」
牛島と一緒に帰る約束をして私は女子バレー部の体育館へ戻る。牛島からお誘いがあるなんて珍しいな。何か相談事でもあるんだろうか。高等部になってから牛島の実力はどんどん認知されていく一方であり、私みたいな平凡セッターが何か力になれるとは思えないんだけど…。